お子様の心境
さくらがオレの前からいなくなったことを認識するまでには、途方も無い時間がかかった。
だって、いつも隣にいて、手を繋いでいる気がしたんだ。
雲が流れる速度と変わらないほど、時間はゆっくりと過ぎてゆく。
夕焼け空の下、追いかけっこをした。
さくらの影を追い続けて、影のオレは確かに小さな手を掴んだのに、実際の感触は…得られなくて。
きこえるのは、舌っ足らずな歌声。
さくらは三拍子が好きなんだ、母さんの子守歌は、いつも同じだったから。
いつしか、影は一人分に。
でも、夕陽よりも眩しいチャーリー君が傍に居てくれる。
本当は、とっくに気付いていたんだ。
だけど、認めなくなかった。
さくらはもうどこにも、いない。
歌声は遠くから聞こえてくるのに、楽しそうに唄っているのに。
早く、忘れなくちゃいけないんだ。
チャーリー君が、立ち尽くすオレを慰めるように輝いた。
━━━━━
姿見に映る桜と睨み合う。
良かった、腫れずに済んだみたいだな。
昨日あれだけ涙を流したから、悲惨なことになっているだろうな…と思っていたんだ。
屋敷の人達に「あれ、桜姫様泣いたんじゃ…?」なんて心配させたくない。
「ひいさま、おはようございます」
「雪ちゃん?」
襖がゆっくりと開けられる。
おはよう、と手を振ったら、雪ちゃんは嬉しそうに微笑んだ。
「もう起きていらっしゃったのですね。新しいお召し物をお持ちしました」
「ありがとう」
ああ、雪ちゃんは桜の侍女なんだもんな。
桜の身の回りの世話は彼女の仕事。
仲直りをして打ち解けることが出来た今、佐助さんに姫の世話係代役を頼む必要はない、か。
別に、残念がっている訳ではないぞ。
佐助さんの手を煩わせるのは申し訳ないし、オレだって女の子の方が好きだ。
「…ねぇ、雪ちゃん。昔の私って、佐助さんとどんな感じだった?」
「佐助様と、ですか?ひいさまが佐助様と一緒に居られるお姿は、あまり拝見したことがありませんでした」
「そうなんだ…、ありがとね」
特別仲良しって訳でもなかったんだ。
雪ちゃんの台詞だけを聞けば、むしろ最初から亀裂が入っていたようにも思える。
結局さ、桜にとっての佐助さんって何だったんだ?
日頃の世話は雪ちゃんがしてくれていた。
それなら、ボディーガードのような…護衛役?
守る人と、守られる人。
本当に、それだけの関係だったのか?
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