姫様の夢 その4



「一つ聞くが、先程の奇怪な歌、あれは貴様…、お前の故郷のものか?」

「奇怪!?はは…うん、そんな感じ。桜の声が綺麗に唄ってくれたから、気持ち良かったよ」

「あのような歌を唄うな。とても、痛々しい…」


桜が辛そうに言うものだから、オレは言葉に詰まってしまった。
佐助さんも聞きたくないって言っていたけど、桜も…"大切な人との思い出を忘れてしまう"、そういった意味の詩を聞いて、悲しみを抱いてしまったのだろうか。


「お前の歌は、綺麗事でしかない。今は乱世なのだ、"恋"というものが存在すると思うか?」

「恋が無ければ、失恋も無い?だから、思い出を忘れることも有り得ない…?」

「……、連れ添った者達に別れがあるとしたら、どちらかが死をむかえた時だけだ。お前ならば、忘れられるか」


ああ、そうだ…ここは戦国時代だった。
歴史は学校で一通りは習ったけど、実際に自分が戦争を経験した訳ではない。
でも、戦いは悲しくて、意味のないものだってことは、オレにだって分かるよ。

現代と同じような恋なんて出来ないんだ。
ましてや、桜は一国の姫様。
国のために、好きでもない人と結婚をして、子孫を残して…


「佐助が…、二度と聞きたくないと言うのも、私と同じ解釈をしたからではないか?」

「そうかもしれない。辛い想いをさせたかった訳じゃないんだけどさ…」


佐助さんも、オレが考える以上の更なる鬱展開を想像したのだろうか。
暗すぎるだろ、お先真っ暗だよ。
乱世を生き抜く人は皆、厳しい考えを持つようになってしまうのかな。


「私は…詩の少女によく似ている。お前の歌を聞き、そう思った」

「桜が?」


静かに息を吐きながら、桜は言う。
もう一度、歌を頭の中で再生させてみた。
そこでようやく、理解した。
この歌詞は、桜にピッタリだ。

恋人を想う少女と、桜が重なって見える。
姫様である桜はこれから、沢山悲しい想いをするんだろう。
だから、歌を聞いた桜は泣いてしまったのかもしれない。
気持ちが痛いほど分かるから。
そして桜は融通の利かない世界に憎しみを抱いた。

求めていたのは平々凡々な生活。
きっと桜は、普通の女の子として生きたかったんだ。


 

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