姫様の夢 その4



それは、唐突だった。
夢の世界に来たんだと認識する暇さえ与えられずに。
何の前触れもなく、オレの背中は思い切り蹴飛ばされていたのだ!


「いってぇっ!な、なにしっ…!」


何しやがる桜!ふざけんな!
着物の女の子が足蹴りなんてするか、普通。

いてて…夢なのに痛いんだけど…
骨にヒビが入ったらどうしてくれるんだ。


「救いようがないな、貴様は」

「え、何で怒ってるの?ってか貴様って言…」


オレは、喉元まで出しかけていた言葉を呑み込んだ。
桜、目が赤かった。
拭いきれなかった涙が頬を濡らしていた。

本当に…桜も泣いていたんだ。
オレが泣いたから泣いたの?
それとも桜が泣いたから、オレも涙を流したのかな。


「…えっと、ごめん」

「謝るな。何故悉く忠告を無視するのだ。貴様、そのままではいつか身を滅ぼすぞ」

「だから、ごめんって……」

「…だが、雪のことは感謝する。あの娘に泣かれては、私が困るからな」


おお、初めて褒められたぞ!?
そっか、桜も雪ちゃんのことは気になっていたんだ。
なんだか嬉しいな。
桜は冷たいだけの人間じゃないんだって、日に日に桜のことを、真実を知ることが出来る。

そう言えば…、桜の言う忠告って、佐助さんのことだっけ。
気を許すなとは言われていたけど、結局は二人きりでデートまがいのことをしてしまったんだよな。

だ、抱き締められたりしてさ…、
いやオレの方がベタベタくっついてたんだけど、桜が怒っているのは、これが原因?
そんなの仕方ないだろ!
佐助さんから離れたら枝から真っ逆様に落ちて、ご愁傷様ってことになりかねなかったんだから!


「まあ良い。貴様の行動は予想が出来ず、正直なところ、私も楽しんでいる」

「なるべく危険なことはしないようにするからさ、佐助さんのことは多目に見てくれない?オレ、佐助さんに嫌われたら本気で落ち込むわ」

「分かった。私には関係の無いことだ。好きにすれば良かろう」


関係なくないってば。
何でそう投げやりに…他人ごとなんだよ。
桜、もう自分の体を見捨てている?
そんな、悲しいことを言わないでくれよ。
確かに、忠告を無視して、佐助さんの前でボロを出して…、桜が呆れる気持ちは分からないでもないけど!


 

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