夜空に響く



「わ…っ、さすけさ…?」

「桜ちゃん……」


覚悟を決めて身構えていたオレは、後ろから佐助さんに、強く抱き締められていた。
ぎしっと枝がきしむ音がして恐かったけど、オレが落下することは万が一にもない。
それぐらいがっしりと、佐助さんの腕が回されていた。

な、なぜ…
おかしいと思ったんでしょ?
この桜姫は偽者じゃないかって、少なからず疑問を持ったんだろ?
尋問して、正体を無理矢理吐かせたりはしないの?


(あ…、佐助さんの心臓の音が聞こえる…)


密着しているから、佐助さんの鼓動が凄くリアルに感じられた。
胎児は母親の体内でこの音を聞いていた。
他人の心音に安心してしまうオレは、やっぱりお子様だってことか?

でも、この心臓が刻む音が、人として生きている明確な事実。
身体の中に赤い血が流れている証拠だ。
こんなにも簡単に証明できたじゃないか。


「佐助さん…、あったかいですね」

「…うん」

「燃えるように熱い幸村様ほどではないんですけど…、佐助さんは、ちょうどいいぐらいです」

「……うん」


あれ、佐助さん…?
背後に立たれているから表情は見えないんだけど、もしかしたら本当に、泣いているのかな?
でも、オレには気の利いた言葉が思い付かない。


「……、あの、そろそろ帰りませ…」

「もう少しこのままで居させて」

「……はい」


くすぐったい、と思ったら、佐助さんが桜の肩に額を押し付けていた。
時折触れる髪の毛が、こそばゆいんだけど…、嫌じゃない。

今更だけどオレ達、枝の上で何やってるんだ…?
佐助さんの超絶バランス感覚がなかったら、二人して真っ逆様だっただろう。

カラスのカー君(たった今命名。密かにそう呼ぶことにしよう)が呆れたように見ている。
この光景、もし幸村様が目撃したなら、あの人は真っ赤になって走り出しそうだ。
佐助さんは女の子の扱いは手慣れていそう…、いや、それはそれでイラッとするな。


(桜のことだけ見ていてくれれば良かったのに!)


永遠に続いてしまいそうなほど長い沈黙。
気付いた時には、バラバラだった二人分の鼓動の音が重なっていた。

…夜が明ける前には帰らなくちゃな。桜に会えなくなってしまうから!



 

[ 56/198 ]

[] []
[]
[栞を挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -