夜空に響く



(佐助さんはどんな気持ちで、別れの、失恋の歌を、聞いてくれているんだろう)


詩の中の主人公は、遠い昔に好きだった人のことを回想しているんだ。
時が過ぎればいつかは忘れてしまう、記憶と思い出。
どうして離れ離れになってしまったの?
大切だった人は…どこにいってしまったんだろう。


「ありがとう桜ちゃん。俺様、とても感動しちゃったよ!」

「そうですか…、それは良かったです」

「でも、二度と桜ちゃんには唄ってほしくない。正直に…そう思ったよ」


はい?褒めてくれたのに、間髪入れずに態度を急変させるってどうなの?
普段の軽い話し方とは違う、真面目な、低い声で…佐助さんは言葉を続ける。


「ごめんね。桜ちゃんが悪いんじゃないんだ。ただ…その詩のように、桜ちゃんが愛した人を忘れてしまうのは…俺様には、耐えられない」

「佐助さん…?」

「あはは、ごめんごめん。記憶を無くした貴女に言うのは酷だったね」


佐助さんの瞳が一瞬、揺れたように見えた。
取り繕ったような笑顔で隠されてしまったけど、オレはその瞬間を、佐助さんの素の表情を、見逃せなかった。

よく、分からないけどさ、佐助さんの心が…、泣いているような…?


「わ…たしにはラッパのチャーリー君が居てくれます。だからもう、唄いませんから。佐助さんを傷付けたり悲しませたりしませんから…安心してください」

「違うんだよ桜ちゃん、俺様は忍びだ。忍びは人間じゃないんだよ。悲しみの感情は、ずっと昔に捨ててしまった。傷付くことなんて有り得ない」

「しっ…忍びだって人間だろうが!!……いや、どう考えても人間じゃないですか…ハハハ…」


やっべぇえええっ!!
佐助さんが変なことばかり言うから、感情的になり思わず叫んでしまった。
今更、無かったことには出来ないだろう…口にしたらそれが最後だ。
言葉は文字と違って、消しゴムも修正液も使えないんだ。

姫様である桜が、こうも分かりやすく違和感のある汚い言葉使いをする訳がない。
今までも危ういことは何度もあったけど、なんとか女の子の口調で頑張ってきたのに。
佐助さんだって、嫌でも桜の異変に気付いたはずだ。
ポーカーフェイスがお得意のはずの佐助さんが、驚愕しましたって表情でオレを見ているんだから!

ああ…終わってしまった…
まだ桜のためにしてあげたいこと、沢山あったのに…


 

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