夜空に響く



絶叫する暇も与えられず、闇の中をふわふわと飛んで、連れて行かれたのは…


「たっ、高すぎ…」


道場のある山の方へ飛んでいく…と思ったら、佐助さんは一番背高い木の枝に着地した。
枝は太いけど、人間二人の体重を支えられるものなのだろうか?
激しく不安です。
折れたら死ぬ、頭を打って死んでしまう。


「桜ちゃん、そう密着されるといくら俺様でも」

「だだだだって!離したら落ちちゃいますよ!」


こんなときにからかうなー!
佐助さんは平然と笑い、必死にしがみついているオレを見て楽しんでいた。


「此処、辺りを見渡せる場所なんだ。夕焼けの時間帯は特に絶景だよ」

「夕焼けですか?でも、今は真っ暗で何も見えませんよ?」

「俺様は夜目が利くからねぇ」


それなら、昼に連れてきてくれ。
佐助さんに見えているのかもしれないけど、オレには月明かりに照らされた近くの木々が微かに見えるだけだ。

電灯が無いから、夜に外出すれば間違いなく道を見失ってしまう。
星を見て方角が分かる人もいるけど、あいにく、オレに天文学の知識はない。


「俺様が見せたかったのは、こっち」

「え?…わっ」


佐助さんが言う方向、ちょうど真後ろ。
目映いぐらいに輝く、そこには…
屋敷から見るよりも大きく、そして手を伸ばせば届きそうなほど近くに、普通じゃない月が輝いていたんだ。


(凄い…!こんなに大きな月、見たことがない…)


本当に自然のものかと疑いたくなるほどだ。
ここまで迫力があるお月様に出くわしたのは、初めてだ。
この場所へ来るまでも月は視界に入っていたはずなのに、全然別物に見えてしまう。
山の上の、高い木の上で見ているから?

本気で、月に近付いたみたいだ。
綺麗だけど、綺麗なんだけど……巨大な神々しい月に圧倒されて、自分がかなりちっぽけな存在に思えてくる。

なんかこう…感傷に浸りたくなる気分だ。
荘厳な世界遺産を前にすると心が洗われる、ってのに似ている気がする。


「桜ちゃん。あの歌、さっきの…聞かせてくれない?」

「え?さっきのって…でも、下手ですよ?……、期待しないでくださいね」


トランペットならそれなりに自信はある。
チャーリー君とオレは一心同体なのだから。
だけど歌は…、嫌いじゃないんだけど、人様に聞かせるほど上手くないんだって。
しかも、佐助さんに抱きついた体勢で唄えと?
そ、それはそれで恥ずかしいな…!!

夜の空気はひんやりと冷たかった。
緊張しているせいで体が熱いから余計に、すうっと…肺に取り込んだ空気が、冷たく感じられた。


 

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