夜空に響く



「こんなの…みっともないよな…、」


ごしごしと目をこすっても、涙は止まらずに溢れ続ける。
バカみたいに泣いてたら、涙が枯れてしまうし、桜も心配しているかもしれない。

もう、いやだ!
早く帰ってきてよ、佐助さん!


「…さすけさん…、佐助…さんっ…!」

「呼んだ?」

「へっ!?」


何度も名前を口にしていたら…、なんてタイミングが良いのだろう。
巨大な黒い鳥に捕まって、空からふわりと降り立った、佐助さん。
月を背に見た佐助さんは、まるで美術館に展示されている絵画の一部みたいだった。

名前を呼べば飛んでいくよ、ってあれ、本気で言ってくれたの?
オレ、そんなに大声で呼んでないよ?
いくら地獄耳でも限度ってものがある。


「お、おかえりなさい…?」

「うん、ただいま。ああもう、またそんな薄着で…」


本当に、佐助さんだ…
聞かないのかな?桜が泣いていた訳を…
いや、オレにもよく理解出来ないんだけど。
自分のことなのに、おかしいよな。

不思議なことに、佐助さんの声を聞いただけで、肩の力が抜けたように安心しているオレがいた。
胸が高鳴り、耳に煩いと感じるほど、鼓動が速まっていく。

このドキドキは…桜の反応だろうか?
もしかしたら、いやオレはホームシックなんだけど、寂しさで泣いたのはオレだけじゃなくて…、桜も……?


「歌をね…聞いたんだ。それが桜ちゃんの声だったもんだから、急いで帰って来たんだよ」

「えっ、そんなに遠くまで響いていましたか!?どうしよう、うるさかったかな…」

「ううん。俺様にしか聞こえていなかったはずだよ。あんなにも情熱的な詩は初めてだ」


情熱的だって?どう解釈したらそうなるんだ!
確かに恋の歌のように聞こえるけど、好きだー!って直接言ってる訳じゃないんだし…


「それも、放浪中に覚えたもの?摩訶不思議な曲調だったね」

「え…っと…」


摩訶不思議とか言われてしまった。
この時代に三拍子は珍しいのか?
オレが知る範囲でも、日本音楽は四拍子ばかりだった。
そう考えると、この時代の人には不思議な曲調に聞こえてもおかしくはないだろうか。


「そうですね。多分…」


目元を強く擦ってしまったのでヒリヒリする。
これは絶対に腫れるだろうから、ちゃんと冷やさないといけない。


「ねえ、桜ちゃん、まだ眠くないんでしょ?俺様と夜のお散歩にご一緒願えませんでしょうか?」


佐助さんはオレの前に手を差し出した。
よく考えればこっぱずかしい行為なんだろうけど、佐助さんは、こちらが見とれて圧倒されてしまうぐらい、似合うな。


「う、わああっ!?」


断る理由も無いので佐助さんの手を取った。
瞬間、宙に浮かび上がった体。
だから、いきなりすぎるんだってば!
佐助さんのカラス、どこに待機していたんだよー!!


 

[ 53/198 ]

[] []
[]
[栞を挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -