夜空に響く



日が暮れるまで、オレは雪ちゃん達とお喋りをしていた。
教室で女子が固まって喋っているのを見て、よく話題が途切れないなと常々感心していたけど、その気持ちが分かった気がする。
上手く言えないけど…楽しいんだよね。

久しぶりに沢山口を動かしたにしては、黙っているときの方が、よっぽど疲れを感じていた事実に気が付く。
人と会話をすることは大事なんだ、ひしひしと実感した。

結局、夕餉の時間になっても佐助さんの姿は見えなかった。



だいたい十二時(この時代の時間の数え方がよく分からない)が過ぎた頃、一度布団に潜ったんだけど眠れずにいたオレは、また廊下に出て、月を眺めていた。

桜に会いたくないんじゃないよ、それは断言する。
今日あったことを早く話したいと思うし、トランペットを教えてあげたいのに。


(疲れているはずなのに、何でなんだ…)


満月が欠け、不格好に歪んだ黄金色の月。
輝かしいチャーリー君の色…とは少し違う。
オレの中で、チャーリー君カラーは佐助さんのオレンジ、と認識されてしまったようだ。
いくら綺麗な黄色系でも、オレの心を射止めることはない。


(そうか…、今日はあんまり佐助さんと話してない。だから、眠れないのかも)


正直、意味が分からないけど。
これって、やっぱりオレは佐助さんに"お母さん"を求めているんじゃ…
高校生にもなって母親を恋しがるなんて、絶対友達には知られたくない。
桜がいても、友達がいても、今この寂しさを満たしてくれるのは…両親、家族だけだろう。

チャーリー君とオレを照らす柔らかな光。
悲しいぐらいに、月が綺麗だ。
しんとした夜空に向け、オレは懐かしい歌を口ずさむ。
桜の声は壁に反響することもなく、冷たい空気に溶けていった。

母さんが好きだった、ゆったりとしたワルツ。
よく、さくらが眠れないとだだをこねたとき、子守歌代わりに唄っていたのを覚えている。

桜の声が歌詞をなぞる。
凄く綺麗な声だった。
男のオレには出せなかった高いキーも、桜は柔らかく滑らかに唄いあげた。


(これ、悲しい詩だったんだな…)


歌詞に込められた物語を、こうして真面目に考え、想像したことはなかった。
自分で唄ってみたのは、今日が初めてだったから。
すごく純粋で、切ない、別れの歌だった。


「…っ!?あ、あれ?」


ぽろぽろと頬をつたう、あたたかい水。
泣いてるよ、別に、泣く理由なんて無いはずなのに…


 

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