愛される姫様



オレはチャーリー君を左手に、赤い花を右手に持ち屋敷へ戻った。
長い廊下を歩き、きょろきょろと広い庭を見渡しながら、無意識に探していたのは…やっぱり、オレンジ色。


(佐助さんは…、いないみたいだな)


桜が屋敷へ戻ったら、飛んで来てくれると思ったのに。
いや、佐助さんは用があると言っていた。
仕事なら仕方がないな、残念だけどな。

…オレ、佐助さんにお帰りって言ってもらえるのを期待してたんじゃないか?
え、まさかのお母さん扱い?
佐助さんは男なのに、お父さんって感じはしない。
オレは寂しいあまり佐助さんに母性を求めているのか?
女の子になったというよりむしろ子供に戻ってしまったようで、何とも言えない気持ちになる。


「宜しいでしょうか、ひいさま…」

「え、はい、何でしょう」


あ、邪魔だったかな。
廊下の真ん中で立ち止まって道を塞いでいれば、忙しい女中さんには迷惑だろう。

振り返って見たら、桜ともそれほど年齢が変わらなそうな女の子がいた。
ここではオレと同年代の子が立派に働いているんだ、素直に尊敬する。

あれ、見覚えがあるぞこの女中さん。
確か、オレに着物の着付け方をレクチャーしてくれた…


「雪さん?」

「ひ、ひいさまが私の名を!?雪は幸せでございます!ですが…呼び捨てで構いません。敬語も要りませぬ」

「あー…えっと」


こんなにも喜んでくれるとは…、桜は女中さんの名前を呼んだことがなかったのだろうか。

屋敷には、数え切れないほど沢山の人が働いている。
大勢の名前を覚え、その中からたった一人を思い出すことは、簡単なことではないと思う。
よほどの記憶力があるなら話は別だけど、オレには無理だ。


「じゃあ、雪ちゃん。私に何か用事?」

「はい。佐助様を捜していらしたようなので…、佐助様は任務で出かけられておいでです。私でよければ、何なりと申しつけください」

「そっか。時間があるときでも良いんだけど、花瓶を用意してくれるかな?この花を飾りたくって」

「はいっ!仰せ仕りました!」


ずっと不安そうだった雪ちゃんの表情がパアッと輝く。
お部屋で待っていてください、とのことなので、言葉通り部屋で待っていたら、彼女はすぐに花瓶を持って来てくれた。


「ありがとう雪ちゃん、助かったよ」


これまた高級そうな花瓶に赤い花を飾る。
白い花瓶を選んでくれたおかげで、赤い花の美しさが際立って見えた。
満足して、花瓶を机の上に置く。

そのとき、オレはやっと、雪ちゃんの異変に気がついた。


「ひいさま、申し訳ありません…!」

「ゆ、雪ちゃん!?」

「ひいさまはこんなにもお優しいのに…、私はっ!」


ポロポロと涙を流しながら、雪ちゃんは額を畳に擦り付けて、なんと土下座をしたのだ。
オレは唖然として何も言えず、暫く硬直してしまう。

どうして?なんで彼女がこんな…
桜に謝らなければならないことをしたのか?


 

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