一人きりの舞台
オレは一心不乱にトランペットを吹いていた。
周りが静かなおかげで、余計なことを考える必要も無い。
「…っっ!?」
チャーリー君の美しすぎる音色に浸っていたオレは、突然道場内に響いた場違いな(壁を蹴りとばしたようなドカンッって)物音に驚き、びくりと大袈裟に反応してしまった。
ドキドキする心臓を落ち着けながらも、恐る恐る、音がした方に行ってみる。
佐助さんの言っていた獣じゃないよな?
人間だと良いけど、っていうか、頼むから人間でお願いします!
ガラ…と引き戸を開けたら、そこに広がるのは綺麗に紅葉した秋の森、人の姿は無かった。
獣も、いない。
じゃ、じゃあまさか…幽霊なのか!?
大嫌いな幽霊を想像してしまい、思わず叫びそうになる。
だけど、足元にちょこんと置いてあった鮮やかな色に気が付き、一瞬にして恐怖を忘れた。
「花だ…、何の花だろ」
名前も分からない赤紫の花。
屈んで手に取り、じっくりと見ていたら、可愛らしい形をしていた。
刃物か何かで綺麗に根が切ってあったので、風に飛ばされて来たわけではない。
桜に花を贈ってくれたんだ。
顔を見せないで逃げてしまったのであろう、照れ屋な人。
いったい、どこのどなたでしょう…?
(桜に惚れていた男とか?)
あり得る。
ツンケンしてたって、可愛いもんな、桜。
オレから見たって桜は高嶺の花って感じだし、密かにファンクラブができていてもおかしくない。
いくら考えたって、オレには贈り主が分からないんだよな。
屋敷に帰ったら花瓶を貸して貰って、この綺麗な花を部屋に飾ろう。
物が無くて寂しい部屋が明るくなるぞ。
顔も名前も存じませんが、ありがとう!
桜を好いている人がいる…、その存在に触れられただけで、とても嬉しかったんだ。
END
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