一人きりの舞台



(あの笑顔が嘘だっていうなら…佐助さんは役者だよな)


桜を大切に、慈しむように扱ってくれる、佐助さんの手。
触れられた肩だとか、撫でられた頭は、まだ彼の手の感覚が残っている。
…なんだか、不思議な感じがする。
嬉しいのとはまた違うし、どう例えたらいいか…思い付かなかった。

正体を疑われるのはいい気がしないけど、向けられた笑顔は、本物であってほしい。
桜と佐助さんが友達になるのは無理がある気がする、けど、…信頼しあえる関係を築いていけないかな。
疑われているとか疑っているとか、そんな悲しい感情は無しにして。


(でも、オレは秘密を…隠し事をしている。佐助さんを、騙しているんだ…)


人間ならば、誰だって秘密のひとつやふたつ、心の奥に隠しているものだろう。
秘めておくことで、自分を守ろうとするんだ、傷付くことが怖いから。
本当は…オレも、怖い。
話をしても信じてもらえるはずがない、って最初から決めつけてきたのは、実際に真実を話す瞬間を想像して、オレは、怯えたんだ。

オレが非難されるのはまだ良いんだよ。
でも、苦しめることになる。
皆に、お前は偽者だって突き放されたら、嫌われたら…桜を泣かせてしまう。

嫌なんだよ、桜が泣くのは。
泣き顔を見ていると思い出す…さくらのことばかり考えていたら、気が滅入ってしまう。


「…はっ、ネガティブ禁止!前向きに行こう、うん」


焦ったって仕方がない。
確証は無いけれど、時間はたっぷりあるはずだし!
ちょっとずつ、距離を縮めていこう。
幸村様と友達になれたんだ、佐助さんだって人間なんだし、手強いかもしれないけど根性で友達になってやる!


(テンション上げるには、これだよな!)


本当なら基礎練習をしてから曲を吹くべきなんだけど、周りには誰もいないし…こっそり省くことにした。
部室内で適当にやってたら、同じトランペットパートのはるひさん(チャーリー君の名付け親だから不思議と逆らう気がしない)に怒られてしまう。

オレは前奏を吹き始めてから、あることに気がついた。
選曲した曲は【トランペット吹きの休日】だったんだ。
運動会の定番曲で、ハモリがすごく綺麗で、勿論オレの大好きな…


(これは…一人で吹く曲じゃなかった…)


明らかに選曲ミスだった。
ハーモニーが魅力的な曲は、一人じゃ全然盛り上がらない
テンションを上げようと思っていたのに、逆に気持ちが沈んでしまった。

無言で地団太を踏めば体育館…じゃなくて道場の床に振動が伝わった。
き、気を取り直そう!
ハモリのない曲を吹くんだ、この際ポップスでも何でもかまわない。



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