命と情の狭間で



一日中、大将がそわそわしていて、見ていられない時があった。
普段は、威厳のある御仁のはずなのに…

旦那との騒がしい日課にも力が入らず、普段とは逆に大将の方が吹っ飛ばされていた(見たくもない光景だった)。
そんなんじゃ皆に示しがつかないでしょ。

何故こんなことに、と考えてみたら、すぐ結論に至った。
そうだ、姫様が帰られない。
当初は、いつものことだからと放っておいたのだが、いくらなんでも帰りが遅すぎる。
大将は心配で夜も眠れないらしく、珍しく不機嫌だった。
とばっちりを受けるのは御免だから、何も言われないうちに姫様を捜しに出た。
正確な行き先は分からないけど、まあ近くにはいるだろう…、俺様も初めは軽い気持ちでいた、んだけど。



『桜姫様が追われています!相手は北条の一般兵のようでしたが…』


彼女の護衛につけた部下が、血相を変えてそう言ったのだ。
姫様の危機だっていうのに、俺様に報告する前にどうして助けようとしないんだ。

苛立ちながら理由を追求すれば…納得するしかなかった。
北条の下級兵だけならまだ俺様の部下にも対応できたはず。
だが、それだけではなかった。


姫様が逃げ込んだらしい森へと近付くほど感じる、敵国の忍びの気配。
ただ者じゃない、風の名を抱く伝説の(俺様の大嫌いな)忍びだ。

意図的に武田の姫を追っているなら俺様も黙っちゃいられないし、遠慮無く攻撃を仕掛けていたけど、どういうことか、奴の気配は動かない。
遠目で見ているだけ…?
つまり、今回の騒動は雑兵が勝手に行っている、北条の命令ではないということだ。

手を出さないならどうでもいい。
だけど顔も見たくないんだから、さっさとお帰り願いたいね。


 

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