命と情の狭間で




『佐助さん、ありがとうございました!』

『…何のことかな?』

『この簪、佐助さんがくださったって聞いたので…、だから、お礼を言いたかったんです』


いったい、何のつもり?
確かにその簪を買ったのは俺様だ。
でも、あんたに礼を言われる筋合いはないよ。
感情を顔に出すことはしなかったけど、内心では苛立ちや複雑なものがぐちゃぐちゃに渦巻いていた。

俺様に、嘘は通用しない。
桜ちゃん…、いや、桜姫様だって承知していたはずだ。
それでも、以前の彼女は嘘をついていた。
いや、彼女自身が嘘だらけだった。
俺様に隠し事は出来ないよ、そんな、あからさまに嘘と分かる嘘をついたってさ。

騙そうとして嘘をつくなら、普通は怪しさなんて醸し出さない。
忍びなら尚更だ。
でも、姫様は違った。
彼女が最も信頼する相手であろう大将にまで、秘密を作り隠している。

本当は恐いんでしょ、人に嫌われるのが。



護衛の名目で、俺様は桜姫様を日々監視していたんだけど、彼女は屋敷から抜け出す事が多かった。
誰にも気付かれないように上手くやるんだよね!俺様は優秀だから騙されないけど。

居心地が悪いってのが大きな理由だろう。
姫様は他を寄せ付けず、嫌悪し、拒絶し続けていた。
人間が嫌いなのか、孤独を好んでいたのか…本意は知らないけどさ。

まあ、そんな態度をとっていたのだから、自業自得なんだろうけど…彼女が皆に一歩引かれて接せられていたのは事実だから。

初めの頃は、俺様が直接後を追いかけて木の上から見張っていた。
姫様は見目美しい人で、誰が見たって普通の町娘とは違うと分かるだろう。
一人で出歩かれて襲われでもしたら…、それは、避けたい。

俺様が見る限り可笑しな様子はなかったし、何をするでもなく三日もすればふらりと帰ってくるから、最近では構わなくなっちゃったけど(俺様の部下を一人は護衛につけ、何かあったら報告させるようにはしていた)。


ところが、そんな矢先。




 

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