くしゃみの伝説



「教えてください。謙信様のこと、知りたいです」

「よくぞ聞いてくださった!軍神殿はお館様とも互角に刃を交える勇猛なお方であり、お館様は敵でありながらも軍神殿と熱い友情を育まれ…」

「旦那、大将のことばっかり…」


幸村様が敬愛する信玄様の隣に、唯一肩を並べる人が、謙信様か。
あの信玄様と対等な立場の人間。
どれほど威厳のある方なんだろうか。

一度口を開いたら止まらない幸村様は、信玄様と謙信様の関わりを熱弁する。
数々の武勇伝を語ったが、川中島の戦いでのこんなエピソードには特に興味を持った。


「軍神殿はお館様に三太刀浴びせた。だがお館様が太刀を受け止めた軍配には、なんと七つの傷跡が残されていたと言う…!」

「凄いですね!でもそれってどういった原理なんでしょうか」

「それは分かりませぬ」


そうですよね、と笑って返したが、確かに凄いとは思うんだけど、状況がいまいち想像出来ない。
三太刀で七つ分の傷を付けた謙信様が凄いのか、それほど強靭な刃を受け止めた信玄様が凄いのか。


「皆が言っている有名な話だけど、真実かどうかなんて分からないんでしょ?二人が自ら語った訳でもないし」

「む…だが、良い話ではないか!」

「だって本人達が肯定しないんだし…旦那のように、大将に心酔している人が創作したのかもしれないよ?ま、夢を壊すようなことは言わないけどね」


言ってます、佐助さん。
時既に遅し、しょんぼりと肩を落とした幸村様は見るからにテンションががた落ちしてしまっている。

今の幸村様、子供の泣き出す前の顔に見えて、少し胸が痛んだ。
現実味がある話ではないし、佐助さんの言うことも的を得ていると思うから、反論する訳にもいかないしな。

信玄様は幸村様のヒーローなんだ。
誰よりも憧れている、大好きな人。
それが作り話であっても、本当だと信じている人にとっては、否定されるのって悔しいものだ。


「っ…ぶぇくしょい!」

「風邪か佐助!?一大事だ!早く医師を…」

「ちょっ待ちなさいって!一流の忍びの俺様が風邪をひくはずがないでしょうが!!」


び、びっくりした…。
でも、佐助さんの盛大なくしゃみのおかげで、少し前の気まずい空気がぶっ飛んでしまったようだ。
立ち上がって今にも走り出しそうな幸村様を宥める佐助さんは、「誰かが俺様の噂をしているんだよ!」と言い落ち着かせようと試みる。


 

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