くしゃみの伝説
「二人とも、お帰り!」
ひらひらと手を振る佐助さんを見て、幸村様はぱっと嬉しそうな笑みを浮かべ、駆け出した。
子犬と飼い主…?いや、失礼な妄想をしてはいけない。
桜と幸村様の初デートを心配していたのか、佐助さんは屋敷の入り口前で出迎えてくださった。
おかえりって言われるのも、なんだかくすぐったい。
こんなにも嬉しい言葉だったんだ。
まだまだ自信が無いから、このお城がオレの家だとは言えないけれど、少しずつで良いから馴染んでいきたい。
「良かった、楽しめたみたいだね」
「うむ!ところで佐助、土産を買ってきたぞ。暇あらば桜殿と三人で茶を飲もうではないか」
え、さっきあんなに食べたのに、まだ食べるんですか!?
幸村様の胃はブラックホールだ、凄いな。
佐助さんへの土産、団子の包みを見せた幸村様は、彼の良い反応を望んでいる。
でも、佐助さんは困ってるんだよなぁ…
ちらっとオレの方を見た佐助さんは苦笑し、幸村様から団子の包みを受け取った。
「しょうがないねぇ。少し肌寒いけど天気が良いから、外で食べようか?」
幸村様の満面の笑みを見せられては、佐助さんも悪い気はしないだろう。
こうして見ると、兄弟みたいだよな。
何にせよ、二人のやり取りは微笑ましい。
佐助さんはオレ達を待たせないようにとすぐに準備をしてくれた。
庭の一角にござを引いたり、茶を入れたり。
さらには、冷えるから、とオレに羽織を持ってきてくださったりして。
そういう気遣いが当たり前のように出来てしまう佐助さんを尊敬する。
こうやってまったりと過ごせるって貴重だ、現代にいた頃は平日は部活、基本的に土日も部活だったからのんびり出来る時間ってそんなに無かった。
戦国時代ってことを忘れられたら、彼らとの語らいも更に楽しめたんだろうけど。
カタカナ言葉を使わないよう注意するのは、意外に疲れるんです。
買ってきた団子を食べながら談笑していたら、いつの間にか話題は、信玄様のこと。
「お館様は素晴らしい方にござりまする!」
幸村様は拳を握り、熱く語る。
佐助さんはお茶のお代わりを注ぎ、はいはいと頷いているが…、耳にタコ状態なんだろうな、オレは面白い話だと思うんだけど。
「桜殿は越後の軍神殿を御存じだろうか」
「軍神?」
「旦那、それじゃ分かんないって。上杉謙信公。覚えてないかな?」
上杉謙信。
知ってるよ、信玄様の最大のライバルだ。
何度も激しい戦をして、塩を贈りどうのこうのって曖昧な知識しかないんだけれど。
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