城下を歩く
「あ。幸村様、少しそこのお店を見てもいいですか?」
快く頷いてくれた幸村様にお礼を言い、オレは目に止まった店に入った。
呉服屋…っていうのかな。
店頭の目立つ場所に並べられていた、それはそれは値段が高そうなアクセサリー。
オレが気になったのは簪で、ちょうど今日、オレが頭につけている簪と似たようなものが置いてあったんだ。
「桜殿の簪は此処で買われたのか?」
「いえ、私のは…箪笥の奥で見つけたんですよ」
別に、桜の部屋を荒らしていたんじゃないぞ。
オレに知る権利があったとしても、女の子の部屋を不用意に探ってはいけないと思う。
タンスの引き出しが奥まで閉まらないから、何が詰まっているのかと思って…そこで、見つけたのが埃にまみれた花の簪。
見るからに高級そうなのになんて扱いをするんだ、と最初は桜の価値観を疑ってしまった。
「いらっしゃいませ…桜姫様でございますか!?」
「こんにちは。すみません、お尋ねしたいのですが…私ってここで簪を買ったことがありませんでしたか?」
呉服屋の店長らしいおじさんに尋ねる。
一日に沢山のお客さんを相手にしていても、桜は姫様だから。
覚えている可能性は…多分、あるだろう。
「はい、以前その簪を選ばれて、お付きの方から代金を頂戴いたしました」
「お付きの方?」
「柿色の髪を持ったお方です」
思った通り、桜の簪はこのお店の品物だったんだ。
柿色って何だか美味そうな名前だ…じゃなくて!
柿色のお付きの方って、誰のこと?
「佐助か」
「うそ、佐助さんが?」
「佐助以外に、髪が柿色の者を某は知らないでござる」
髪の色、橙色じゃなかったのか。
幸村様が言うならば、佐助さんで間違いないんだろう。
「でも…おかしいな、佐助さん、今朝何も言わなかったのに…」
扱いにくい着物と格闘し、何とか着替えることは出来たけど、考えてみればオレは髪飾りなんか一度も付けたことがなかった。
こんなことお願い出来るのは一人だけ。
簪の飾り方が分からないから教えてください、と佐助さんに頼み、髪をいじってもらったんだけど…
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