城下を歩く



「某は、桜殿がそうして笑ってくださるだけで、喜びを感じるのでござるよ」

「…はい?」


怒っている、んじゃないの?
きょとんとし、ぱちぱちと瞬きをするオレを見て、幸村様は苦笑する。
あ、あれ?勘違いしたのは、オレの方だった?


「女々しいと思ってくれても構わないでござる。某は女性への接し方が分からず、いつも桜殿に不快な想いをさせてしまい…申し訳ない。それ故、嫌悪されてしまうのも仕方がないことでござった」

「そんな!嫌悪だなんて…」

「しかしながら…不謹慎かもしれぬが、今がこの上なく楽しく思うのでござる。桜殿が某に、そ、そのような可憐な微笑みを向けてくださるとは…!」


幸村様、それ、口説いてるのか?
顔は真っ赤だけど、無意識下で言っているなら凄いぞ、貴方。
純粋すぎる性格のせいで、女の子を泣かせてしまうタイプだな、幸村様は。

笑ってくれるだけで嬉しい…、か。
そうだよな、オレも、そう思うよ。

佐助さんが…初めて笑顔を見せてくれた時、本当に嬉しかった。屋敷の皆にも、夢の中の桜にも、溢れそうな幸せを携えて笑ってほしいって、オレはそう望んでいる。


「私も…幸村様が笑ってくださると、嬉しいですよ」


だから、ずっと笑っていてほしい。
困ったように真っ赤な顔をされるのが嫌な訳じゃないけど、笑顔に勝るものはないだろ?


「あの、私、幸村様とお友達になりたいんです!」


図々しいことを言ってごめんなさい。
記憶を失ってしまったから、新しく友人を作っていきたいんです、と付け加える。

幸村様が、桜の友達第一号になってくれたら…
そうしたら、桜は(中身は男のオレだけど)、いつも貴方の好きな表情で笑っていられるから。


「桜殿…!ああ、有り難き幸せ!ぅお館様ぁあぁぁあっ!この幸村、心より感謝いたしまするぅうう!」


ガタンと椅子を倒す勢いで、幸村様は仁王立ちで叫び出した。
何故そこで信玄様が出てくる!?
幸村様は熱くなると周りが見えなくなっちゃうんだな。
それが凄く幸村様らしく思えて、オレはぶふっと噴き出していた。


(なあ、桜…嬉しい?幸村様と友達になれたよ)


幸村様と居るといつだって楽しくって、きっと、つまらないことは何もなくなっちゃうんだ。
この人は、友達になった桜を大切にしてくれる。
ひとりぼっちで、孤独だった時の寂しさを、埋めてくれる。


「ありがとうございます…幸村様」


オレの呟きは幸村様の絶叫にかき消されてしまう。
うん、平和って良いな。
白い湯気がたっていたはずのお茶は、もうすっかり冷たくなっていた。


 

[ 32/198 ]

[] []
[]
[栞を挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -