城下を歩く



真田幸村という人は、女子に免疫が全くないようだ。
稽古や鍛練中の勇ましい姿が嘘のように、女中さん相手でも口ごもっちゃうようなそんなシャイな性格らしく、桜のこともかなり苦手としていたんだと、簡単に想像出来た。
それなのに、幸村様は……


「そ、某と共に城下へ行ってはくださらぬか!?」


早朝、信玄様との殴り合いを終えた幸村様は、真っ先に桜の部屋へ赴いた。
デートのお誘いですね。
そう言った彼の顔は林檎よりも赤くなっていて…、失礼ながら、笑いを堪えるのに必死になってしまった。



甲斐の国。
季節は秋も終わりという頃だ。
暗い印象だった山は色を変え、色鮮やかな紅葉が風に乗って足元へ落ちた。

今日、桜の髪を飾るのは、可愛らしい桃色の花の簪だ。
外に出るから、お洒落でもしてみようかと思ったんだけど(心まで乙女になったら負けだと思うけど!)季節はずれだったかもしれない。


「桜殿?如何なされた?」

「あ、すみません」


遠くを見ながらゆっくりと歩いていたせいで、幸村様との距離が開いてしまった。
こんな知らない場所で迷子になったら帰れなくなるから、気をつけないと。

今日は幸村様と城下に遊びに来ている。
あの照れ屋な幸村様の方から誘ってくださったんだぞ。
その時の状況を思い出すと、おかしくて笑ってしまう。

だってさ、幸村様って武将なんだろ?
他の兵士の皆さんは強面なのにな、信玄様のお気に入りで、皆の上に立っているはずの幸村様の方が子供っぽいっていうか、赤面してばっかりで……可愛い人だよな。
幸村様、朝からずっと真っ赤で、焦って青くなったりもして、緊張しているのが見て分かる。

一応、相手は桜だしな。
言葉数は少ないのに、たまに口を開けばキツいことを言うお姫様だ。
オレが幸村様の立場だったとしても、同じぐらい緊張してしまうと思う。


「な、何故笑っておられる?」

「い…いえ、何でもないですよ」


それでも幸村様は、桜に関わろうとしてくれる。
苦手でも、嫌われてはいなかったんだ。
じゃなきゃ、わざわざ誘ったりしないし、二人きりで出かけようとは言えないよな?


「良い所ですね、活気があって…」

「桜殿もそう思われるか!お館様の治める国ゆえ、甲斐は何処よりも良い国でござる!」


時代劇で見るような街並みだ。
当たり前だけど、すれ違う人は皆、着物。
オレ達を見て、頭を下げつつびっくりしたように道をあけてくれるのは、桜が姫だって知られているからか?
それとも幸村様が有名なお武家様だから?

桜は城下の人にどう思われているんだろう。
悪い噂が流れていないといいけど…


 

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