さくらの序曲



高校二年生っていうのは一番楽しい時期だと思うんだ。
入学して学校生活に慣れずに緊張して終わってしまう一年生、受験に勉強に忙しい三年生。
だから真ん中は自由だ。
本当に、毎日が充実している。

部活の方も夏に先輩が引退し、やっとオレ達の時代がきたと喜び、次の大会に向けて毎日練習に励んでいた。
オレは吹奏楽部でトランペットを吹いている。
小学生の頃から続けているから、自分で言うのは自慢のようになるけど、結構上手な方だ。

トランペットは吹奏楽の花だ。
あの甘美な音色は耳にするだけでテンションが上がる。
それを自分で奏でているとなれば、気分は最高だった。
大きなホールのステージで、スポットライトの眩い光を浴びながらトランペットを吹くことが、何よりも気持ちいい。

オレの生き甲斐トランペットのチャーリー君だけだ。
オレはもうお前以外愛せない、といつも語りかけている。
ちなみに命名してくれたのは同じパートの女子で、彼女の名は、はるひさんと言う。


「じゃあなー奏!」

「おう、また明日」


数少ない男子部員の友達に手を振った。
部活後の帰り道は薄暗く、11月にもなると陽が短くなってきたためだろうか、少しだけれど肌寒かった。

通い慣れた通学路。
いつもと変わらない町並み。
ぼうっと輝く電灯に集まり始めた虫を目にする。
綺麗に形作って空を飛ぶ小鳥はまだ良いけど、闇夜を漂うコウモリ、ゴミを荒らすカラスは正直言って不気味だ。

はあっと息を吐いてみたら、微かに白い色が見えた。
通学鞄と、チャーリー君を入れてある楽器ケースを持つ手が冷たくて、そろそろ手袋が必要かな、と考えていたとき。


「あれ、電話か…誰だ?」


携帯電話が震え、着信音【ハトと少年】が大音量で響く。
オレの一番好きなトランペットの曲だ。
子供の頃は、気持ちよさそうにトランペットを奏でるパズーに憧れたものだ。

家族か友人か、そんな身近な人しか想像していなかったオレは、画面に表示された見知らぬ名を見て首を傾げた。


【桜姫】


(姫…って。こんな変わった名前の子…登録してたっけ?)


そもそも、女の子は苦手なんだ。
性別が異なると、些細なことで意見が食い違う…というか、まあ、深い理由はない。
アドレス帳に登録してある女性と言えば、母親と、はるひさんを含めトランペットを吹いている部活の女子数人。
だからこそ、見覚えのない名前に疑問を持たないはずがなかった。

無視すればよかったものの、オレの指は勝手に通話ボタンを押していた。


 

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