姫様の夢 その2



ああ、この浮遊感は予想通りだ。
嬉しいのか悲しいのか、よく分からない。

偽造宇宙空間は、昨日見た夢と全く同じもの。
呼吸が出来ているのが不思議なぐらいだ。


「また会ったな!桜ちゃん!」


佐助さんを真似して名前を呼んでみることにした。
馴れ馴れしい奴と思われることは承知の上だ。
悲しいことに、これだけでも心臓がドキドキしている。
うろたえないで、落ち着かなくちゃ!


「…また貴様か」


深い溜め息をつかれてしまった。
そりゃ、わざわざ平均以下のオレの顔なんか見たくないだろうと、なんだか申し訳なくなってきた。

今日の桜は、目元はうっすらと濡れてはいたけど、俯いてはいなかった。
時間は限られているんだから、落ち込んでいる暇は無い。

オレは深呼吸をして、桜に告げた。
まずは、自己紹介をしよう。


「オレの名前、奏っていうんだ。よろしくな」

「……、」

「桜とお話したかったんだ。隣、座るよ?」


今は無視されても良い。
話しかけるな、って敵意むき出しで拒否の言葉を吐かれるよりは断然マシだ。
友達でもない男に密着されたら気分が悪いだろうから、一定の距離をキープしつつ、桜の隣に腰をおろした。

桜は眉間に皺を寄せ、いぶかしげにオレを見ている。
意図がまるで読めない、って表情だ。
オレの出方をうかがっているのだろうか。

桜と話したい、その気持ちに裏はない。
仲良くなるにはまず共通の趣味を見つけて、そこから話題を広げていけばいいんだ。


「オレさ、音楽が好きなんだよ。歌を唄うのも、楽器を演奏するのも大好きなんだ。桜は何か楽器出来る?」

「……、」

「オレはトランペット…いわゆるラッパなんだけど、うーん、分かるかな?桜にも見せてあげたいなオレの相棒!」


無理だろうな、夢の中に現実のものは引っ張ってこれない。
だけど…どうにかして桜に聴かせてあげたいよな。
チャーリー君の音を聴けば、絶対にテンションが上がると思うんだ。
オレ、昔に比べたら随分と上手になったんだよ。
毎日、沢山練習したんだから。
…下手くそでも、もっと聴かせてあげたかったな。
お前なら喜んでくれたよな、笑って、くれたはずだよな…


 

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