小さな夜の歌



「じゃ、そろそろ部屋に戻ってね。身体壊されたりしたら、俺様減給食らっちゃうから」

「あ…、佐助さん、ちょっと待ってください」


いや、これは言ったらドン引きされるだろうか。
それも覚悟の上だ。
オレ、いつも電気を消さないでていたから、暗闇には慣れていないんだ。
微かにでも光があれば良いんだけど、この部屋は襖を閉めたら月明かりも入ってこない。
灯りを消したら前も見えないぐらい真っ暗ってのがどうにも、嫌な感じがする。


「私が眠るまででいいので、あの…ここに居てくれたり、してくれませんか?」


本当はこんなことを口にするのは死ぬほど恥ずかしい。
だって、何か変なものが出てきそうじゃないか。
戦国時代だしさ…落ち武者とか…想像しただけで気持ち悪い!


「え、何それ、本気で言ってるの?」

「はい!本気です!」


ホラー映画も嫌いだ。
お墓参りだって躊躇う、申し訳ないことだが。
肝試し、お化け屋敷なんてもっての他。


「はあ…俺様頭が痛くなってきたよ」

「ええ!?大丈夫ですか!?」

「あーうん平気、姫様が早く寝てくれれば治ると思うよ」


でも、無理して苦笑いしてませんか…?
オレが無駄話に付き合わせたから?
佐助さんは仕事で疲れているはずなのに、話を聞いて相談にまで乗ってくれたんだ。
な、なんて良い人なんだろう!
オレ、現代に帰ったら、佐助さんみたいに人に優しく出来る男を目指そう。


「はいはい、お休みー」

「そんなすぐには眠れませんって」

「じゃあ、子守歌でも歌う?さすがに冗談だけど!」


なんだ、ちょっと残念。
戦国時代の子守歌、興味あったのにな。

オレは敷いてあった布団に潜り込んで、佐助さんはすぐ傍に座った。
どんな顔をしているのか気になったけど、部屋が暗すぎてオレには佐助さんの表情が見えなかった。


「ちゃんと傍にいるから、安心して?」

「ん…はい…」


髪を一撫でされただけで、どっと眠気が押し寄せてくる。
この安心感は…母親を彷彿させる。
小さい頃は、いつもこうして頭を撫でてくれたっけ。

母さん、心配してるかな。
あっちは時間が止まったままなのかな?
それともオレは行方不明で、神隠しだとか言われたりして、ニュースで大騒ぎになってる?

現代には、誰にも奪われることがないオレだけの居場所があった。
家族、がそうだ。
父さんと母さんの子供でいられるのは、他の誰でもない、オレだけだから。


(帰りたい、な。帰れるものなら…)


でもオレは、桜を置いてはいかないよ。
泣き虫な女の子を二度とひとりぼっちにはしない、そう決めたんだ。



END

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