小さな夜の歌
部屋から一歩出ただけでも、そこは絶好のお月見スポットだ。
冷たい廊下に座るのは抵抗があったから、オレは空を見上げながらぼうっとその場に立っていた。
柔らかな光を放つ月は、現代で見る物よりも大きく、綺麗に見える。
やっぱり、都会は空気が汚れているから歪んで見えていたのかな。
戦国時代は争いは多いかもしれないけど、自然は現代よりずっと綺麗で、優しかった。
人の心だって、本当は綺麗なはずなんだ。
血を流す恐ろしい戦も、私利私欲のためって人もいるだろうけど、ほとんどは平和を求めているからこそ起こってしまうものであって。
そう思っていたいのが本音なんだ。
オレに優しくしてくれた人達も、戦いで人間の命を奪っているなんて、あんまり考えたくない。
戦争を知らない現代っ子のオレだって、命の重みは分かっているつもりだ。
大切な人を失えば、全てに絶望してしまうぐらい、悲しいってことも。
「桜ちゃん?眠れないの?」
「っっ!?」
だ、だからさ、いきなり後ろから話しかけないでほしい。
そのうち心臓が止まってしまいそうだ。
「驚かせないでくださいよ、佐助さん…」
「あれ、気付かなかったの?そっかーごめんね」
無意識では気配消しなんて出来ないと思う。
本当はビビらせるつもりだったんだろう、反応を楽しんでいるんじゃないのか?
「眠れないんじゃなくて…寝たくない…と言うか」
「どうして?」
「……、」
眠ったら、夢の中でもう一度桜に会ってしまう。
そう、心のどこかで確信している。
嫌じゃないんだけど、桜とはまだまだ話したいことがあるんだけど…昨日はあんな険悪なまま目覚めちゃったから。
どんな顔をして会えばいいんだ。
桜、泣いているんだろうな…
オレの、せいで……
「やっぱり、恐い夢を見たんじゃないの?」
「…いえ、なんて言ったらいいか…」
「俺様に話してくれる?それとも、聞かない方がいい?」
佐助さんは背の低い桜に目線を合わせ、顔を覗き込む。
心配してくれるのは嬉しいよ、でも、泣きそうになるからこれ以上はやめてほしい。
オレ、涙腺弱いんだって。
辛いときに優しくされると、反射的に目が潤んでいく。
男のくせに、情けない。
桜はさ、望んでいないんだよ、オレの存在を。
いくら佐助さんがこうやって手を差し伸べてくれても、桜がオレという存在を認めてくれなかったら、いつまでも桜の居場所を作れないじゃないか。
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