些細な日常



「ひ、姫様!いけません、このような場所に立ち入っては…!」

「あの、何か手伝えることってないですかね」

「姫様ともあろう方が何をおっしゃいますか!お戻りください」


首を横に振って、物凄い勢いで拒否されてしまった。
こんなに必死にお願いされたら、引き下がるしかない。

その後は調理場とか、洗濯場とかいろいろ回ってみたけど、結果的に惨敗だった。
ただ、姫様の立場がどうのこうの言っているのは、ごまかしのような気がしてならない。

理由も無いのに人を疑うのは良くないことだ。
でも、女中さん達は姫様に仕事をさせたくないのではなく、桜が苦手だから、一緒にいたくないから追い返しているように見えるんだけど、気のせいだろうか?


(一人は…つまんないのにな…)


オレは日当たりの良い廊下に座り、庭をぼんやりと眺めるしかなかった。
着物で体育座りは難しいので、足が痺れるけど正座をする。

木の枝に止まって羽を休める小鳥が羨ましい。
空を自由に飛んで逃げ出したいよ、出来ることなら。

今日はもう、人に話しかけるのは疲れてしまった。
お姫様も楽じゃない。
気を使われ、気を使い、そんな毎日って息が詰まりそうだ。

いくらオレが、桜になりきって場の雰囲気を良くしようと努力しても、周りが拒絶するだけなら意味をなさない。
此処には、桜を理解しようとしない人ばかりだ。
どれほど嫌われるようなことをしたんだよ、桜姫は。
脳にしっかりと植え付けられた悪いイメージは、なかなか覆すのが難しいようだ。


「桜よ、暇を持て余しておるようだな」

「信玄様!?」


予告も無い、突然すぎる登場に困惑する。
立ち上がって頭を下げれば信玄様は豪快に笑って、桜の髪の毛をわしゃわしゃと撫でてきた。
その行為で、桜は本当に信玄様から愛されているんだと分かり、嬉しくなった。

寂しいんだって、オレも、桜も。
もっと誰かと喋りたい、言葉を交わしたい…でも、それを口にすることが許されない環境。
その嫌な雰囲気を、良い方向へと変えることが、果たしてオレに出来るだろうか。


 

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