些細な日常



テレビで見るような完璧な日本食という感じの朝食を食べ終えたら、皆が自分の仕事に取りかかってしまう。
広い部屋に、オレは一人ぽつんと取り残されてしまった。
なんとなく付き合いやすそうだった幸村様も書類にサインをする仕事があるらしいし、佐助さんも任務があると言って何処かに行ってしまったから、少しだけ寂しさを感じる。

普段なら、学校に行って…適当に授業を聞き流して、放課後の部活を楽しみにして。
毎日が変わらずに過ぎていたけど、オレはそれで満足していたんだ。
休み時間に友達とバカ騒ぎをする、部活で皆と練習をする…そんな些細なことが、楽しかった。
だから、何もすることがないっていうのは…暇で暇でおかしくなりそうだ。

チャーリー君…トランペットの練習をすればいいじゃないか、とも思ったんだよ。
でも、いきなりこの時代で、しかもお姫様が、トランペットを吹くのは違和感があるだろう。
桜が何か楽器を嗜んでいた、としても、トランペットはまず考えられない。

日本の楽器と言えば琴や三味線、篳篥(ひちりき)、尺八あたりだろうか。
この時代ではまだ、トランペットは知られていないんだろうな。
佐助さんも、何それって言いたげな目で見ていた。
桜が放浪中に異国の商人から買って練習したから吹けるんですよ、なんて言い訳も考えたんだけど、そもそも記憶喪失中でした。

それに、管楽器の音は遠くまで響くから、周りの人にうるさいと文句を言われる可能性も大いにある。
チャーリー君が邪険に扱われるのだけは耐えらない。
皆の仕事の邪魔をしたくはないし、迷惑もかけたくない。
ゆえに、練習ひとつするのにも躊躇いがあるのです。


(やっぱり、暇だな……)


オレは与えられた部屋でごろごろしていた。
桜の部屋には物がほとんど置いていない。
大きな姿見と、タンスと、木で出来た小さな机だけ。
遊び道具でもあれば暇潰しができたのに。

退屈すぎてじっとしていられず、屋敷を歩いてみることにした。
女中さんは忙しそうだから、オレにも出来る簡単な仕事が少しぐらいはあるんじゃないか、と僅かな期待を胸に抱いたりした、んだけど。


 

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