朗らかな朝に



佐助さんは新しい着物を持ってきてくれた。
昨日女中さんに習ったばかりから、ぐちゃぐちゃになりそうだけど…一人で着付けられるとは、思う。


「姫様、嫌な夢でも見た?よく寝付けなかったんじゃない?」

「えっ?いえ、ぐっすり寝てましたよ?」


途中までですが。
困ったな、そんなに顔色が悪いのだろうか?

嘘をつくことは心苦しい。
優しくしてくれる人達を騙しているんだから。
でも、本当のことを言ったところで、素直に信じてもらえるとは思えないんだよ。

それよりも、記憶を失ってさらに頭までおかしくなったのでは、と勘違いされてしまいそうだ。
そうやって誤解された桜が一番可哀想だ。
だから、本当のことは誰にも言わないで胸に秘めておくつもりだ。

オレは桜として、ここに馴染まなくちゃ。
帰り方やその他いろいろなことが分からない以上、オレは桜姫を演じなくてはならないんだ。


「姫様。困ったことがあったら俺様の名前を呼んでね。何処にいても、すぐに飛んでいくから」

「佐助さん…?」

「あ、信じてないでしょ。大丈夫、信じて。俺様は貴女を裏切ったりしないから」


オレ…信じていない?
確かに、そうかもしれない。
言葉にする前に、オレは皆を疑っていた。
バカだな…そんなんじゃ、最初にオレが皆を信じなきゃ、皆から信じて、受け入れてもらえるはずがない。

正座をしていたオレに視線を合わせるため身を屈めた、佐助さんの顔はとても近くにあった。

んー…オレは男だから推測で言うけど、女の子って寝起きの顔とか他人に見てほしくないんじゃない?
ただでさえ今は酷い顔してるのに、こんなに近くで見られたら隠しようがない。


 

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