無垢な少女



わざと冷たい態度を取っても、玉は気付かないのだろうか。
嫌われようとしても嫌ってくれないのか。

目まぐるしく表情を変え、相手の調子を崩す。
熱く燃える炎とも違う、闇を照らす輝きでもない、何者にも似ていない、不思議な少女だ。


「…次の村までだ。私は先を急ぐ」

「了解じゃ!」


不器用な性格が災いし、桜には友と呼べる者が一人も出来なかった。
そもそも、努力を怠っていた。
友が要らなかった訳ではない。
ただ、必ず訪れる別れが怖かっただけだ。


「私の名は桜だ。覚えなくてもよい」

「桜とな…、そちは甲斐の姫君であったか!」

「…ああ。武田家と織田家との関係は友好的とは言えぬ。だからこれ以上は」

「かっ、感激じゃ!わらわの新たなダチが甲斐の姫君などと、これほど喜ばしいことはない!」


ダチ。
それが友達を意味していると気付いた時、桜はカッと胸の奥が熱くなった。

玉は、どこまでも純粋な無なのだ。
どの色にも染まることができる無色。


「参ろうぞ、桜!」


そうは言えども、桜の色に同調したはずの玉は、闇色には見えない。
むしろそれは、春に咲き乱れる花のような桃色だった。

桜と玉。
以後、二人が再会することは無かった。



━━━━



桜は眩しさに目を細める。
手にしていたのは冷たい金属、チャーリーと名をつけられた南蛮の楽器だ。


「桜?」


そうだ、今は夢を見ているのだ。
夢でありながら意識を持ち、心の同居人に、この楽器の奏法を習っていたのだった。


「…すまぬ。お前によく似た女のことを思い出していたのだ」

「え、オレに似てる女の子なんているの!?それは想像しちゃいけない気がする!」


やはり、似ている。
彼を邪険に扱えないのは、初めての友人である玉に雰囲気が似ているからなのかもしれない。

出会えて良かった、と口に出来る理由が見つかるまで、彼との奇妙な時間は続きそうだ。



END

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