無垢な少女



血に染まる、花。


(此処も…悲しい魂で溢れている…)


地に折り重なるようにして横たわる無数の亡骸を見下ろし、そっと目を閉じた。
胸の前で手を組み、死者の霊を慰める。

桜姫は闇に身を置く者だ。
生まれながら、桜には闇の力を自在に操る、稀有な力があった。


「お前達の居場所は此処ではないのだぞ…、どうか、安らかに」


桜の祈りに反応するように、周囲を埋め尽くしていた邪気が浄化される。
在るべき場所を見つけた魂達は、空へと。

鼻につく死臭はどうにもならないが、桜は死体の側に白い花を手向け、その場を後にした。



桜には記憶がある。
人間になる以前、魂だった頃の記憶が。
持ち得ていた感情が邪魔をし、桜は一般の少女のように育つことはできなかった。


大地を踏みしめ、あてもなく歩く。
今日は少し遠出をしてみよう。
季節は移り変わり、畦道に咲く野花も姿を消した。
それは季節のせいだけではない。
戦の際に放たれた矢が地面に突き刺さっているのだ。
炎により焼け焦げた草むら。
戦いは自然に害を及ぼしていた。

桜が屋敷を抜け出すのはもはや日常的で、何度も繰り返せば咎める者は誰も居なくなった。
元々関わりが深い訳でもなく、余計な無駄口を叩かれず桜は内心有り難いと思っていたが、…何処かで諦めがあったのかもしれない。

人は死ぬために生きている。
必死に生きても、いつかは死ぬ。
短い一生の中、精一杯生き抜くことがうつくしいのですよ、とある人が言っていたのを思い出した。


(どうせ死んでしまうのならば…人と関わり行くことに意味などない)


だから私は誰も要らない。
いくら愛されても、何一つ返すことが出来ないのだから。


 

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