それぞれの恋



密命を受け、暗殺を目的として春日山城に忍び込んだくのいちは、上杉謙信の美しさに心奪われ…、任務は、失敗に終わった。
かすがという名を与えられ、そのまま謙信に忠誠を誓ってから…数日が過ぎた。


ある女が謙信を訪ねてきたのだ。
年は十四、十五ぐらいだろうか。
かすがよりも若いであろう少女は、予約もせず謙信に謁見を求めてきた。

なんて無礼な女だとかすがは思ったが、謙信は少女を喜んで迎え入れたものだからさらに面白くない。
性別は関係なく、他人が謙信に近付くことが不快でたまらないかすがは、苛立ちを覚える。

しかし謙信は、かすがを自室に呼び出した。
先程訪れた女を紹介したいと言う。
謙信と女を個室で二人きりにはさせたくなかったので、かすがは内心ほっとしたのだが…


「そうか…そなたが佐助の女か」


挨拶も無く、名乗ることもせず、少女…武田の桜姫は呟いた。

甲斐の姫であれば謙信と面識があり、尚且つ佐助の名前を知っていることも頷ける。
きっと、佐助が自分について話したのだろう。
奴のことだから有りもしない内容を適当に語ったのかもしれない。

謙信の前で醜い感情は見せられなかったため、かすがはどうにか怒りを隠したが、桜が同盟国の姫で無ければ手を出していただろう。
何よりも、謙信が桜を大切にしている現実よりも、よもや佐助などとの関係を疑われるとは!


「つるぎよ、さくらとなかよくしてくれますね?」

「もっ、勿論です!」


ちら、と桜の方を向けば、彼女は表情を変えず、真っ直ぐかすがを見つめていた。
…心が読めない。
何を考えているか全く分からない。

こんな女と仲良くなど出来るだろうか?
かすがには少しも自信が持てなかった。




 

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