暗闇の哀れみ



奴の狙いは、姫様だったはず。
もう用が済んだから姿を消した?
だとしたら、松永は姫様の身にどんな無体を働いたというんだ。
……桜ちゃん?
姫様がこうして帰って来て、桜ちゃんが居なくなってしまったことと、関係ある?


「ふふ…気味が悪い。佐助と…これほど自然に会話をしているなどとは。身の毛が弥立つな」

「そういや、そうですね…」


身の毛がよだつとか言われちゃったよ。
姫様…、笑ってるし。
何か、変な感じ。
あの姫様と、こうして普通に会話出来る日が訪れるなんて。
再会したら、伝えたいこと…沢山あったんだけどな、いざとなると緊張して何も言えなくなる。


「佐助、よく聞け。今の私の瞳は…、ほとんど機能していないのだ。既に手遅れゆえ、放置して構わぬ」

「うそ、ちょっと見せて!!何でもっと早く言わないんですか!」

「構わぬと言っているのだ。少々不便ではあるが…」


構わないだって?何を言っているんだ。
俺様達の距離はこんなにも近いって言うのに、貴女には俺様が見えていなかったの?間近で覗き込んだ桜姫様の瞳には、やっぱり、光が灯っていなかった。
ああ、俺様がもっと早く駆け付けていれば、姫様を傷つけることはなかったのに…!


「暗闇に閉じ込められたというのに、どうして姫様は気丈でいられるんですか?貴女だって、恐怖ぐらい感じているだろ!?少しは弱さを見せてよ…俺様ばっかりこんな、情けないなんて…」

「……私は、疲れたから暫く眠らせてもらおう。佐助、頼むぞ。この体はいずれ、お前の"桜ちゃん"の体となるのだから」

「っ…姫様、やっぱり桜ちゃんは…」


貴女とは別に存在していたんだ、と口にする前に、姫様は俺様に背を向けた。
淡い色をした光に包まれる、桜姫様。
それは月の色。
以前桜ちゃんと見上げた夜の太陽。
光の粒子が音をを立てて、はじける。


「姫様!」


力無く崩れ落ちた姫様を受け止める。
以前より、軽くなった気がする…思わず心配してしまうほどに。
宣言通り、眠ってしまったの?
本当に…眠っただけだよね?


 

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