暗闇の哀れみ



「鳥を逃した今、私が欲するのは卿の稀有な力だけ。要求を呑んで頂けぬのならば、彼等も無事では済まないがね」

「幸村様、…佐助…」

「ちょっとさ…ホントに、本物の、桜姫様なの?」


俺様の言葉に、旦那が首を傾げている。
旦那は姫様の存在を疑ったことがないから、俺様の質問の意図が掴めないんだ。

桜姫様の、虚ろな瞳が宙を見る。
何を探しているの?
貴女の瞳には何もうつっていない。
鈍く輝く月の色さえも闇に溶けてしまう。


「ああ…佐助…」

「桜姫、様…」


貴女に名を呼ばれるのが酷く懐かしくて、同時に胸が痛くなった。
俺様…姫様に再会出来て嬉しいのか、残念がっているのか、頭の中がぐちゃぐちゃで、自分でもよく分からない。


「桜殿!某がお助け致す!」

「ちょ、旦那!待ってって言ったのに!」


桜ちゃんに名を呼ばれて何か思うことがあったのは旦那も同じだったらしく、俺様の制止を振り切り松永に向けて突撃していった。こうなったら俺様も着いていくしかない。
手裏剣を構え、狙いを定め地を蹴る。

姫様、動けないとは思うけど、出来るだけじっとしていてね。
桜ちゃんのお願いだ、俺様が貴女を助けてみせる。
全てが終わり、元の暮らしを取り戻したら、胸の内に隠していたことを聞かせてよ。
貴女が何を、誰を想っていたのか…、桜ちゃんのことも、きちんと話して。
俺様も、全部話すから。
姫様に言わなかったことと、桜ちゃんに対しての、迷える気持ちを。


「馬鹿者…私に近付くな!止まれ!」

「っ…!?」


静止する姫様の叫びが聞こえた途端、目の前が真っ白になる。
視界の端にまた別の人影を見た気がするけど、判別する前に消えてしまった。
いったい、自分の身に何が起きたのか…、視界一面に深い霧が揺らぎ、状況を把握することが出来ない。

非道な松永のやることだ、いやらしい罠を仕掛けていたんだろう。
…いや、それは無い。
姫様の負った傷は、きっと爆風に飛ばされた衝撃により出来たもの。
既に何度か爆発が起きているならば、あの場にはもう、爆発物は残されていないはずだ。


 

[ 178/198 ]

[] []
[]
[栞を挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -