暗闇の哀れみ



松永久秀が東大寺に潜伏していると聞き付け、俺様と真田の旦那が其処へ到着したのは、夜も更け月が空高く輝く頃だった。


「佐助…様子がおかしくはないか?」

「…そうだね。何かあったのかもしれない」


遠目から見ても、その場の異変を察するのは容易だった。
東大寺の中心に赤い光が揺らぎ、それはやはり燃え盛る炎で、物凄い勢いで建物を包み込んでいる。


「桜ちゃん…、桜ちゃん!!」


何が起きたのか、予想をしてみれば悪い結果ばかりが思い浮かぶ。
俺様…どうしてこんなに焦っているんだ。
桜ちゃんが無事でいる気が、しない。


長く続く石畳を蹴り、最奥へと進めば、炎の中に揺らめく黒い人影を見つけた。
一人は男、炎が目前に迫っているというのに口元に笑みを浮かべた…、あれが松永久秀だ。

そして、地にうずくまるのは…桜ちゃん、じゃない?
着物は薄汚れ、額からは血を流している。
黒い両の目は虚ろで、普段の彼女の面影は全く見られなかった。

松永の指が、桜ちゃんの頬を這う。
それを見た旦那は頭に血が上ったようで(俺様もカチンときたけど)炎を纏った槍を松永へ向けた。


「無礼であるぞ!桜殿に触れるでない!!其方の御方が誰か知らぬ訳でも無かろう!」

「…邪魔をしないで頂けるかな?残念ながら、私は卿と話すことは何一つ無いのだよ」


嫌みを素直に受け取り、そのまま猪のように突っ込んで行きそうな旦那を静止する。
今の旦那は抑えが利かないから、松永だけじゃなくて桜ちゃんにまで攻撃が当たってしまうだろ。


「姫君はもはや私の人形。そうであろう?桜姫…いや、"咲耶姫"と呼んだ方が宜しいかな?」

「このっ…下郎めが!!私を、その名で…呼ぶな…!」


だれ、だなんて。
思ってはいけないことを、俺様は無意識下で想像してしまった。

桜ちゃんの口から発せられた声には、普段の彼女からは考えられないほどの怒りや殺意が込められていた。
貴女は…桜姫様?
その口調、雰囲気。
今の桜ちゃんは、姫様そのものだ。


 

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