姫様の夢 その1
目を開けたら、また、暗闇。
闇に目が慣れても視界ははっきりしないが、そのうちようやく天井が見えた。
長く息を吐きながら辺りを見渡せば、此処は桜姫の自室だと分かった。
オレは随分と眠っていたらしい。
もう真夜中なのだろう、灯りの無い部屋は真っ暗だ。
物音ひとつしない怖いぐらいの静けさの中で、オレはいつの間にか、ボロボロと涙を流していた。
これはきっと桜の涙だ。
夢の中で泣いていた桜の涙を、今度はオレが流しているんだ。
いや…多分、オレの涙も含まれているかな。
せっかく桜に会えたのに…、初対面で嫌われるなんて余程のことがなくちゃ、有り得ないだろ。
心が押し潰されそうだよ、チャーリー君。
(決意…したのになぁ。ダメだ…。やっぱり帰りたい…)
桜が泣くのはオレのせいだ。
生きることに絶望し、死ぬことを望んで、深い森に佇んでいた桜姫。
オレが来なかったら、桜は幸せになれたのか?
…あの世で、幸せになれる?
「死んだら全部終わるんだぞ…ばーか…」
独り言を呟いたのはオレなのに、耳に残る声は桜のもので、複雑な気持ちになった。
彼女のために何かしてあげたい。
自己満足だってのはよく分かっている。
"さくら"を、大切な女の子を救えなかったオレの罪を、桜が許してくれるかもしれないと…都合の良いことを考えているだけだ。
(でも、オレに何が出来る?)
何も思い付かないオレは役立たずだろうか。
分からないんだよ、どうしたらいいのか。
桜は苦しんで、今も泣いている…その事実がただただ悲しい。
少しでいいから笑顔を見せて、桜。
…泣かないって言っただろ。
明日になったらオレも、笑っているから。
だから笑ってよ…さくら…!
END
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