死の円舞曲
「随分と頑固な姫君だ。卿には人の肉体も、卿を匿っていた異物も…守るに値しない屑だと言うことかな?」
『…その程度で私を理解したつもりか?貴様のような浅ましくも悲しい男には分かるまい。それ以上、私に触れることは許さぬ』
「…ほう」
え……オレ、喋っていないのに!?
オレの意思に反し勝手に動いた口から発せられたそれは、桜のものだった。
この態度の変わりよう、桜の異変に気付いた松永が手の力を緩めたせいで、いきなり肺を満たした空気に噎せ、咳き込んでしまった。
「…驚きだ。これも神の力か?」
「っ…バカだろ桜、出てくんな!」
今までだって戻ろうと思えば戻れたくせに、オレがどう説得しても桜は動こうとしなかった。
女の子は引っ込んでろとは言わないけど、あえてこんな時に出てくることないだろ!
お願いだからもうちょっと耐えてくれ。
きっと、佐助さんが来てくれるから。
オレは…桜が苦しむところを、見たくないんだよ。
「どうして…神の力を欲しがるんですか?」
「得体の知れない物に興味を抱く事は、自然の摂理ではないか」
「悲しい考え方しか出来ないんですね。本当に、可哀想な人だ…」
他人を傷付けてまで、手に入れたいか?
時代が時代だから仕方がないけど、そういう残酷な考え方を受け入れられないのは、オレが生粋の現代っ子だから。
この人には心が無いの?
感情はあっても、思いやりの気持ちが極端に欠けている。
ずっと昔の桜のように、友達と呼べる人も居なかったのかな。
(っ…頭がくらくらする…)
酸素不足と、桜が外へ出ようとする衝撃で脳が麻痺しかけている。
気力でなんとか意識を保っているけど、それも長くは続かないだろう。
「卿は…私が可哀想、だと言うのか」
「はい。いろいろと残念だと思いますよ。その、声とか…羨ましいぐらいカッコいいじゃないですか。活用出来る場だってあるでしょうに…勿体無い」
……、オレは何を言っているんだ。
松永はツボにハマったのか、腹の底から可笑しそうに高笑いをする。
人をバカにするような笑みは健在だ。
む、むかつく…
「はははッ!!実に愉快だ。気に入った。今からでも遅くはない。私の物にならないか?」
「は…?」
「私は欲しい物は確実に手に入れる主義でね。神の力も、卿も同時に得られる機会は他にない。だが、卿は当然私を拒絶するだろう。ならば私にも考えがある」
つらつらと言葉を並べられたけど、つまり松永は、オレを気に入ったってこと?
少なからずオレは松永の言葉に安堵した。
理由はどうであれ、殺される心配が無くなったんだと、都合良く思い込んだから。
「えっ…?うわ!!」
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