死の円舞曲



「そうか…卿は異物だったのだな!!最高の隠れ家ではないか。さすが、出来損なった神の考える事は大胆だ」

「ちっ…違う!!桜はできそこないなんかじゃない!」


桜を悪く言う奴は絶対に許さない。
怒りに任せ、オレが偽りの姫であることを、自らの口で暴露してしまうことになった。
しかも、松永は本物の桜がオレの中に居ることにも気付いているんだ。

…そう言えば謙信様も、初めて顔を合わせたとき、オレの存在を感じていたみたいだけどさ。
何か見分けるポイントでもあるのか?
松永の洞察力が素晴らしいのか、オレの態度があまりにも姫らしくなかったのか。


「巻き添えを食らった不憫な籠の鳥。これは好都合。卿を人質に、姫君と交渉をしようじゃないか」

「はっ!?人質?な、や、やめ…!」

「聖なる女神よ、卿からは其の稀有な御霊を貰おう。さすれば私は籠を開け、鳥は自由に羽ばたかせてやるのだが、どうだね?」


制止する間も無く、松永は桜の細い首に手をかけ、ぐっと容赦なく力を込める。首を絞められ、途端、嘔吐しそうになる。
苦しい…、気持ちが悪い。
気管が役目を果たせていないから、必死に口を開いても酸素を取り込むことが出来なかった。


「っ……、う…!」

「クク、苦しいだろう。姫君を庇う事で卿にどのような利があったと言うのか…、理解し難い」


ふざけたことを言いやがって。
オレは、利益を求めて桜の傍に居た訳じゃない。
文句を言ってやりたかったけど、今はそれどころじゃなかった。
酸素が足りないせいで目に涙が溜まり、徐々に意識は朦朧とする。


(オレを人質に…桜を脅迫するつもりか…!)


この人は、どこまでも卑怯な手を使う。
桜がオレを決して見捨てることは出来ないのだと見抜いた松永は、自分の手は汚さず、強引に力を差し出させようとしているんだ。


(駄目だって!桜、諦めるなよ!)

(馬鹿者。この状態で私が絞め殺されては、お前も共に死ぬぞ)

(オレは死なない!…だって…力を失えば、結局桜は死んじゃうんじゃないか!)


桜をみすみす死なせてたまるかよ!
一緒に甲斐に帰るって約束しただろ!
オレ、嬉しかったんだよ。
死にたくないって、生きたいんだって言ってくれたこと。

佐助さんに好きだって伝えなくていいの?
桜の切ない気持ち、胸に秘めたまま終わらせたくない。
せめて、佐助さんが助けに来てくれるまでは、頑張ろうよ…桜…!


 

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