死の円舞曲



「用件を…言って下さい。私を、一刻も早く帰らせてください」

「ほう…何処へ帰るというのかね?神に成り切れなかった卿の帰る場所など、元より存在しないであろう」

「なっ…!?」


何で…と、言葉にも出来なかった。
驚愕は桜も同じだったらしく、頭の中で、小さく息を呑む音が聞こえた。
人に生まれる前は神様だったってこと、桜は誰にも言わず、ずっと隠してきたんだぞ!?
今まで全く接点の無かった松永が…、どうして、その情報を得ることが出来たんだ。


「何故、と言いたいようだが、卿は以前より神の力で各地の霊を除去していただろう」

「除去って…そんな言い方…」


桜の噂を聞きつけて、神様の能力を欲し、卑劣な手段で連れ去ったってわけ?
この人は自分のことしか考えていないから、皆が泣こうと苦しもうと関係無いんだ。
もし、松永が神様の力を手に入れたら、自分の欲望に忠実に生きるんだろう。
それこそ貪欲な、人間のすることだ。
自己中心的な人は、神様にはなれないよ。


「かつての私は、神の存在を信じてはいなかったのだが…、最近、理屈で説明出来ない事態に遭遇したのだよ。故に、卿の力が完全ではなくとも神の物だと言うのなら、是非私に提供していただきたい」

「理屈で説明出来ないことなんて、そんなの、山のようにあるじゃないですか…」

「ならば、私の前で死人を甦らせてみたまえ。何、容易いであろう?」


いやいや、簡単に言うんじゃねぇよ。
死者を冒涜するにも程がある。
確かに、桜なら可能かもしれない。
でも、亡くなった人の魂を強引に呼び戻すなんて、普通に考えて良い行いじゃないし、力を使った桜の体にも負担がかかるんだ。

松永はじろじろと桜を見ていた。
蛇のような眼孔は恐ろしく、その視線だけで死ねるんじゃないか。
背筋に流れる汗の量が尋常じゃない。
縛られていなかったら、きっと腰が抜けてうずくまっていたはずだ。
目の前の桜だけではなく、オレの存在までも見透す、松永の視線に射抜かれた。


 

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