死の円舞曲
きらきらしたチャーリー君によく似ている人。
太陽のようで、眩しくて。
ここまで自己主張の激しい忍者は他に居ないだろうと思った。
初めはそんな印象しか抱いていなかったのに、いつしか、オレの大切な人になっていたんだ。
「…う…、な!?何だこれ…ありえね…」
鉛のように重い瞼を開けたら、目玉が飛び出しそうなぐらい驚いてしまった。
捕らわれのお姫様。
ドラマでは見たことがあるけど、まさか自分がこんな目に遭おうとは。
星一つ瞬かない黒の空に、くすんだ色の月が浮かぶ。
此処は…神社?寺か?
四方に配置された松明の炎があやしげに揺らめき、綺麗に並んだ石畳を確認することが出来た。
桜は地面に突き刺さった太い丸太にくくりつけられ、両手は縄でギッチリと縛られている。
試しにもがいてみたけど、全くと言って良いほど身動きが取れない状態だ。
腰には帯に繋がったチャーリー君がぶらさがっていて、ああ、桜はこうなることを予測していたんだな、と今更納得した。
「つうっ…、いてて…」
無理矢理に動いたせいで、体に巻きついた縄が食い込み、自分で自分を締め付けてしまった。
手首の血管が圧迫されて血が止まりそうになり、気持ち悪い。
コツン、と軽い足音が響いて、オレは肩を震わせた。
真っ直ぐ、オレの所へ向かってくる影。
生温い風が吹く。
頬に微かな風圧を感じた途端、体全体に悪寒が走った。
まだ相手の顔も見ていないのに、どうしてここまで威圧感があるんだ。
「姫君のお目覚めですかな」
「あ…貴方が、松永久秀?」
「これはこれは。やはり、卿は見通していたのか」
鼓膜をじわじわと侵食するような低い声。
綺麗な声なんだ、恐ろしいぐらいに。
こいつが、信玄様の留守を狙って甲斐の民を傷付けた張本人。
憎むべき敵の顔を目に焼き付けるよう、睨み付ける。
すると松永は、クッ…と何が愉快なのか笑っていたけど、鋭い瞳に射抜かれ、恐怖に身が竦んだ。
丁寧な喋り方だけど、無性に腹が立つ。
桜が姫様だと知っている人は、まずは一歩引いて、探るように表情をうかがうんだ。
皆との距離が開いていたのは事実だし、これから縮めていけばいい、彼らの反応は悲しくも仕方がないことなんだと認識していた。
それでも…違うんだ。
この人は、桜を見ようともしない。
瞳に映っているのは、桜の力と、その中に居るオレだ。
まだ子供なオレは、怒りも怯えも隠すことが出来なかった。
これでは、相手を喜ばせるだけだ。
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