忍びの心
旦那じゃなくて、俺様で良いの?
俺様のこと、信頼して言ってくれたの?
そんな言葉聞いちゃったら、俺様…
本当は今すぐにでも助けに行ってあげたいけど、まだ戦は終わっていないんだ。
真田忍隊の長が、半端な状況で離脱することが出来るはずがないじゃないか。
大将に事の次第を話して、命を与えられなくては次の行動に移せない。
今も桜ちゃんは敵の手中で、俺様のことを待ってくれているのに…こうして、動けずにいる。
歯がゆいけれど、俺様の独断で、勝手に任務の遂行は出来ないんだ。
「…大将が戻られるまで待つ。その後策を練って、姫様の救出に向かう」
「佐助!桜は貴様を待っているんだぞ!」
「だからさ、俺様一人の判断では動けないだろ。状況を考えろよ」
かすがに思い切り殴られそうになり、すんでのところで避ける。
足場が悪いけれど、俺様には関係ない。
軽く身を翻し、隣の木の枝に着地した。
「何故だ!貴様は桜の気持ちを考えたことはないのか!?どうして…あの健気な娘のことを、分かってやれないんだ!」
「かすがは俺様の気持ち、分かるの?感情で動くなって言ってんの。いい加減にしろよ」
「…虚しい男だ」
そりゃ、忍びですから。
いかにして冷たい心を作りあげるか、それは忍びとして大切なことだ。
桜姫様の気持ちなんか分かんないよ。
あの人は全ての感情を隠し、最初から最後まで、俺様に気を許してはくれなかったんだから。
「あ…、旦那が呼んでる。行かなくちゃ」
「佐助。自分が忍びでなければ…どうしていた?」
「愚問だ、かすが」
馬鹿なことを聞くなよ、俺様の存在を否定している。
完全なる妄想、戯れ言だ。
忍びじゃない俺様になんて、何の価値も見いだせないし、必要ともされない。
真田の旦那だって。
俺様が忍びだから、傍に置いてくれたんだ。
だけど…、俺様が何もかもを失ったとしても、それでも、笑って受け止めてくれる人だと思う。
姫様は?桜ちゃんは…?
「…飛んでいくんじゃない?真っ直ぐ、疾風のように、桜ちゃんの元へ」
「佐助……」
忍びだって、人間だと。
そう言ってくれた桜ちゃんなら、ただの男になった俺様を、変わらずに受け入れてくれるんだろう。
ごめんね、桜ちゃん。
俺様は旦那に仕える忍びだから、一番にあんたを助けにいくことは出来ないんだ。
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