忍びの心



「屋敷に残った者の中で、私が最も足が速いと思われたので、こうして参じました」

「だからって…屋敷が安全じゃないと分かっているなら、片時も離れずくっついてもらわないと困るんだよ!」

「申し訳ありません。調査の結果、内部に間者が紛れ込んでおりました。首謀者は松永久秀。狙いは桜様で…桜様は…」

「姫様が…どうしたって?」


答えを求めなくても、才蔵の悲痛な表情を見れば、次の言葉は容易に想像出来る。
守りきれなかった、絶望や後悔がひしひしと伝わってくる。

まさか、内部に間者が居たとは。
最初から敵方に通じていたとしたら、考えを見抜けなかった此方側の不手際だけど、俺様の知らぬ間に、言葉巧みに誘われ、唆されたのでは?
松永久秀。
噂はよく聞くけど、どれも悪い話ばかり。
そんな男の元へ連れて行かれた桜ちゃんが、無事でいる保証は…無い。


「ふざけるな!貴様、何故桜を…!」


才蔵の胸倉を掴んだかすがは怒りを露わにし、今にも苦無を突き付けそうな勢いで詰め寄る。
かすがにとって、姫様は唯一の友達だ。
松永久秀の無情さを知っているからこそ、その報せを聞き、落ち着いていることは出来ない。


「才蔵。桜姫様は自分から、身を明け渡したんじゃない?」

「…その通りです」

「そ、そんな、どうして…桜…」


自分が狙われていると知って、訳も分からず、酷く混乱し、不安に怯えたはずだ。
こんなときに限って、傍に居ない俺様を恨んだかもしれない。

桜ちゃんは皆を傷付けないために、自分を…桜姫様を犠牲にした。
…正直、苛立っている。
浅はかな考えの先に、何が待っているか、少しぐらいは考えただろ?
無防備さを指摘するより、無謀な行いをしないよう忠告しておくべきだったと、今になって反省した。


「桜様から長へ、言伝を預かっております。『早く助けに来てください』だそうです」

「え、俺様宛?」

「桜様は他の誰よりも、長に会いたがっておられました」


 

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