忍びの心



「…北条の首を、取るのだろうな」

「そりゃそうでしょ。そのために来たんだし。隠している事を、洗いざらい吐いてもらった後にな」


大将と、軍神殿。
二人が直々に本陣へと乗り込んでいった。
大将自らが赴くことで、敵方の戦意を喪失させる作戦だ。
普通じゃ有り得ない話だけれど、こうなると、家臣が止めたって耳を貸そうともしない。
まあ、既に勝敗は決しているから、俺様達も後方に待機し、黙って見守っている訳だ。

北条兵はほとんど降伏し、命乞いをする者ばかり。
律儀に残ったのは風魔だけ…か。
雇われ忍びのくせに、奴にそんな忠誠心があったのは驚きだ。


「何者かに脅されたとは言え、北条のしたことは最低ではないか!謙信様の御心中を思うと、胸が張り裂けそうだ…」

「かすが。無闇に他人を信じてはいけないんだ。この時代、裏切りなんて茶飯事だろう」

「貴様ほどの忍びでも…裏切られることは、怖いか?」

「俺様に怖い物はありません」


忍びらしくない優しい子だよ、かすがは。
他の痛みが分かる忍びなんて、何処を捜してもかすがしかいない。
…俺様は、裏切る事の方が怖いよ。
自分が旦那に刃を向ける瞬間を想像しただけで、息が止まりそうになる。

だから、桜ちゃんに嘘を付かれていても、いいんだ。
裏切られてもいい。
俺様も彼女を信じていなかったんだから、おあいこだろ。


「俺様…かすがを好きになれば良かったな」

「っ……!貴様、二度とそのような台詞を口にするな!」

「冗談だって。本気にしなさんな」


生暖かい風に乗って香る濃厚な血の匂い。
それと、嗅覚を狂わせる死臭。
桜ちゃんに怖がられたら嫌だから、体にも染み付いたこの匂いを、屋敷に帰るまで落とさなければ。

かちゃん、と苦無を握るかすが。
俺様の冗談に癇癪を起こしていたかすがだが、こちらへと吹く風の流れに気付き、鋭い目を向ける。
殺気は…感じられない。
それは、俺様のよく知った気配だった。


「才蔵?何してんの?」

「長、桜姫様の下知にございます」


俺様とかすがの間に割って入ったのは、桜ちゃんの護衛を任せていたはずの才蔵だった。
下知って…桜ちゃんが俺様に?
彼女の言葉を預かっていたとしても、才蔵が屋敷を離れたら、誰が桜ちゃんを守るんだ。


 

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