姫様の夢 その1



「はっ、誰が貴様など!他人の力を借りてまで、生き長らえようとは思わなかった」

「え……」

「疎まれる者は野垂れ死にがお似合いだ。私には…居場所がないのだから」


ずきん、と胸が痛む。
痛んだのはオレの心のはずなのに、桜はまた、とめどなく涙を溢れさせていた。
感情を持たないと思われていたお姫様が、こんなにも儚い姿を見せている。

居場所が無いから、死にたいんだって。
じゃあ何で、オレに涙を見せたんだ。
知らない男に押し倒されたときに流した涙は、襲われるのが悔しかったから?
本当に?それだけじゃないよね?

ただ刀で胸を一突きされて呆気なく殺されたかった?
それならお前は喜んだのか?
そんなふうに弱々しく泣いたりしなくて済んだのかよ。


「我慢…してたのか?」

「何だと?」


これ以上口にしたら、桜は怒りながらももっと泣いてしまう気がする。
簡単な言葉を並べたって、それは薄っぺらい台詞にしか聞こえないだろう。


「オレ、どうしてお前の中に入ったのか分からないけどさ、」


宗教を信じている訳ではないけれど、これは神様の壮大なイタズラかもしれない。
理由は単純で、暇つぶしに一人の人間をからかって遊んでみたかったから、とか。


「正直凄く不安だし、出来ることなら今すぐ帰りたいよ」


部活を引退したら、そこで終わり。
チャーリー君とは一緒にいられるけど、高校の吹奏楽部の一員として、コンクールには出場できない。
限りがあるから、真剣に、いつだって全力で頑張っていたんだよ。
これから、友達にも、家族にも会えなくなると思うと切なくなる。

何でオレが。
すごく可哀想だろ。
誰よりも哀れだろ。

だけど、そうなんだけどさ…オレは桜を守りたいと思ったんだ。
同情…とは言いたくないけど、今は言葉が見つからない。

でも、オレ達が出会ったことに少なからずとも意味があるのだとしたら、すぐ傍で泣いている桜を、守ってあげたいと思った。


「私は姫に戻る気はない。もう沢山だ。所詮姫である私は紛い物。貴様に私の体を譲ってやろう。貴様が桜として生きるといい」

「駄目だ!それじゃ駄目なんだよ…」

「くどい!!…いいだろう。ならば、貴様がこの私を…」


ああやっぱり、女の子は苦手だ。
表情で嘘をつく天才だ。

桜、お前は涙を流している理由が、自分でも分かってないんだよ。
本当は、幸せになりたいんだろ。
皆の傍で生きたいって、そう言ってくれれば…誰もお前のことを勘違いしたりしなかったはずだ。


「貴様がこの私を、殺してくれればいい」


可哀想なのは、桜だ。
自分を否定することしか出来ない。
存在を証明する方法を知らないまま、そうやって生きてきたんだ。


(強がってるくせに。バカ桜!)


居場所を失ってしまった、哀れな女の子。
守るだなんて、カッコつけた台詞、軽々しく言うんじゃなかった。


 

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