忍びの心



どれほど不利な状況でも、戦の先に待っているものは、勝利しか考えられない。
勝たなくちゃ意味が無いんだ。

今回、俺様はいつも以上に冷静だった。
北条の下に伝説の忍びが居たところで、何かが変わる訳ではない。
俺様が命を懸けて守らなくてはならないのは大将と、真田の旦那。

そして…一刻も早く甲斐に戻りたかった。
熱を出し苦しみ、寝込んでいた桜ちゃんのことが心配で、戦の最中も時折思い返しては頭が痛くなる。
それだけじゃなくて。
眠る桜ちゃんに口付けをしたときの、唇の甘い感触や温度が、頻繁に蘇ってくるものだから。


(限界だな…、もう…)


あんた本当は桜姫様じゃないんだろ、と突き付けて、口を割らせ、真実を知りたいと思うようになった。
きっと、黒い瞳を一瞬だけ大きく見開いて、すぐ誤魔化そうとするんだよね。
慌てる様子は可愛いけれど、言い訳を聞き流せないぐらいに切羽詰まっちゃったんだな、これが。

桜ちゃん。
俺様のこと、待っていてくれるの?



思っていたより、戦は優位に進んだ。
旦那も張り切っていたし、一度届いた甲斐からの報せ(俺様、なりふり構わず走り出しそうになった)も旦那にとってはやる気に繋がったんだろう。

屋敷に爆発物がしかけられた。
被害は城下にまで及び、怪我人も多数出ている。
当然、桜ちゃんも危険に晒される訳だから、早急に戦を終わらせて姫様をお助けする、旦那はそう考えているはずだ。

そんな旦那に比べ、俺様は情けない。
戦を放り出してでも、桜ちゃんの元に向かいたいと思ったんだから。
俺様がすべきことは、武田、上杉両軍を勝利に導くことだ。
あっちには才蔵が居るし、桜ちゃんのことを絶対に守りきってくれるはず。
そう言い聞かせ、俺様は雑念を振り払うため、再び戦地へと飛び込んだ。



━━━━━



「…おい、佐助!」

「え、なーに?かすが」

「なに、ではない!らしくないぞ、戦場で考え事をするなど…」


向こう側の木に立っているかすがが、呆れたように此方を見ていた。
あれ、俺様意識が別の所へ行っていた?
まずったな…かすがに格好悪いところを見られてしまった。


 

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