姫様の夢 その9



「じゃあ、佐助さんに迎えに来てもらって屋敷へ帰ったら…、今度こそ桜は、姫様に戻るんだぞ?」

「…無事に帰還出来たらの話だがな」

「桜はオレが守るから!!いや、期待されたら困るけどっ」

「ならば、私がお前を守ってやろう。此処でお前を死なせる訳にはいかぬゆえ」


オレは頼りない男だ、だけど桜はオレを信じてくれている。
絶対に、死んだりしない。
二人で甲斐の国に帰るんだ、そのためなら何だってする。
桜を、甲斐の皆に愛される姫様にするって役目、果たさなくちゃならないんだ。


「でも、オレは甲斐に帰ったら、皆ともお別れだな。名残惜しいけど…桜が生きる気になってくれたから、安心して元の世界へ帰れるよ」

「…お前は心の内に秘めた佐助への想いに気付かぬまま、此処から立ち去るつもりか?」

「あ、あのさ…本当の気持ちが分かんなくなるからそれは言わないことにしようよ。頭痛くなってくるんだって…」


だからさ、佐助さんは母さんみたいな人、のままでいてほしいんだって。
オレ、好きだよ?佐助さんのこと。
幸村様も信玄様も、桜や雪ちゃん、今まで出会った人、みんな…大好きだ。

…オレだって後のこと考えているんだよ。
オレは、この世界に居座り続けるべきではないと思うんだ。
ひた隠し、何事も無かったかのように消えてしまわなければ。
オレ、は相当変人だろ?

だって…生を受けた時代が、違う。
過去と未来は、決して交わることが無い。
桜とオレが生きる今は、イコールしていないんだ。
同じ時代に生まれていたら、オレは此処で生きることを望んでいたはずだから。


(…そんなの、都合の良い言い訳だろ)


気付きたくない、認めたくないだけ。
桜を裏切って、オレばっかりが幸せになんかなれるはずがない。
最後の最後で、桜と険悪なムードで別れることになるのは、いやだよ。

オレって、言うなれば危ういんだ。
それは、地に引かれたラインの手前ギリギリに、片足で立っているような感覚。
指先で背を押されただけで簡単に線を越えちゃって、そこでおしまいなんだ。


(チャーリー君…。オレ、どうしたらいいんだろう。どうすればいい?)


桜は影の世界から太陽の下へ、オレは、元の時代へ。
待ってくれている人が居る、帰るべき場所があるのは、幸せなことだよ。


END

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