姫様の夢 その9
そう言えば…今朝から、桜の様子はいつもと違って、僅かな違和感を覚えさせるものだった。
傍に居るオレが早くに気付くべきだったんだけど、大変なことがありすぎて、オレは桜の気持ちを考えることをしなかった。
「松永弾正久秀という男を知っているか?」
「知らないけど…どなた?」
「私の身に起きたあらゆる事実から導き出すと、そやつが現況としか思えぬのだ」
桜は頭を抱えて、思い詰めたように深く息を吐く。
知っているんだ、桜は自分を連れ去った人物の事を詳しく把握している。
その重々しい溜め息から察するに、結構やばい相手らしい。
松永久秀…か。
教科書でも見かけた覚えがないし、聞いたこともない名前だ、有名な人なのか?
「卑劣な男だ。人を虫螻のように扱い、己の望みの為には手段を選ばない」
「そんな恐ろしい人が…、いったい桜に何の用があるっていうんだ?」
「力、ではないか?私に備わる、他とは違うこの忌々しい力を欲しているのだろうな」
桜の力…、オレはよく理解していないけど、それって幽霊関連、なんだろ。
ホラー系は苦手だからって、知ることを拒んでいた。
でも、こんなことになっちゃったし、きちんと聞いておいた方がいいかもしれない。
「桜の持っている力って、ぶっちゃけどんな感じなの?別に怖い系な話になってもいいぜ!耐えるから!」
「そうだな…潮時だ。お前だけには話しても良いか」
静かに笑った桜は、ぼうっと何秒かオレを見つめて、すぐに視線をそらした。
…何だろう、何か変だぞ。
確かに桜は無表情だったし、生きることに執着していた訳でもない。
だけど、こう…無気力っていうか、悟りを開いた菩薩様みたいになっていないか?
「実を言うと私は…人の子ではないのだ。信玄様とも、血の繋がりはない」
「……!嘘、じゃないんだよな…。いきなりかよ…桜、最初からきつすぎだって…」
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