恋をする人



(私は…お前に姫として生きることを委ねた。今も撤回するつもりはない。桜姫が認められたのは、お前の努力があってこそだ)

(…戻る気は無いって言うのか?桜…オレが何のために頑張ってきたか知ってるだろ!?)


何でだよ…桜!そんな悲しいこと言わないでくれよ!
桜がこの先ずっと姫に戻らなかったら、オレの努力なんて水の泡になってしまう。
そんな…弱気なままで、オレがいきなり居なくなったら桜はどうなる?
大丈夫なの?
生きる気力が無いからって、気まずい雰囲気作らない?

桜は生きて幸せになるべきなんだ。
佐助さんに言わなくちゃならないことも、たくさんあるんだろ。

…桜さ、オレと佐助さんをくっつけようとしてる?


「きゃああぁ!!」

「ゆ…雪ちゃん?」


ねえ桜、オレ嫌な予感がするんだけど。
もしかして…いや、もしかしなくても、
可能性が無いわけじゃない。
狙いは、領地でも宝でもなくて…桜?


(雪を助けろ。何と引き替えにしてもだ)

(…うん。そのつもりだよ)


才蔵さんの傍をすり抜け、雪ちゃんの叫び声が悲鳴が聞こえた方へと走る。
やっぱり引き止められたけど無視したら、才蔵さんはオレの後を追ってきた。


(どうする?桜)

(私はお前の判断に任せよう)

(…分かったよ)


ごめん、オレのしようとしていることは、結果的に桜の身を危険な目に合わせることになりそうだ。
でも…ここで雪ちゃんの悲鳴を聞かないふりをしたら、桜だって後悔する。
その次のことは、後で考えるよ。


「此方へ来てはいけません、ひいさま!」

「…や、もう来ちゃったしさ」


屋敷の敷地内だけど、そこは人気も無く、死角となっていた。
まだ花が咲いてない桜や梅の木には、固く閉じた小さな蕾が見えた。
冬が終われば色鮮やかに開花するだろう。

明らかに武田の人ではない男に拘束された雪ちゃんは、首筋に刃物を突きつけられ、震えていた。
コイツが…今日の騒動を引き起こした犯人か。
何度、人を傷付ければ気が済むんだ。
関係の無い人を巻き込んで、どれほどの人を苦しませたか分かってんのかよ!


「その子を放してください。代わりに私を」

「桜様、何を仰るんですか!」

「ひいさま…!」


才蔵さんに手首を掴まれる。
感情的になっているのか、痛いぐらい力を込められた。
この人の性格上、何があっても桜を女中の身代わりにはさせないだろう。
お願い、見逃してよ。
我が儘もこれで最後にするから。


 

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