恋をする人
燃えるような夕陽を見て、佐助さんのことを思い出していたのは本当だけど…
そもそも、どうして才蔵さんが桜の気持ちを知っているんだ?
「絶対に秘密ですから!さっ、佐助さんには言わないでくださいよ!?」
「いえ…?あの、確信は無かったのですが…」
「……えー、なにそれ…」
なんてこった…才蔵さん、カマかけやがったな。
オレは墓穴を掘ってしまったのか。
「夕焼けを見る桜様が…太陽に、恋しい男を重ねているように見えたもので」
「たったそれだけで、想っている相手まで分かるなんて…観察してますね」
「はい。最近は特に、長と向き合う桜様は、そのような瞳をしていましたよ」
…ちょっと待て。
最近は特に、って…オレが桜姫になってから、も含まれているよな?
あ、あれ…つまり、さ。
オレも、ってかオレが…佐助さんを恋する瞳で見つめてるってことにならないか?
え、じゃあ、やっぱり…オレも、なのか?
(何故認めない。私に気を遣っているつもりなら、有難迷惑だ)
(桜まで何を言い出すんだよ)
(お前は私のことばかり考え、自分を知ろうとしない。いい加減、逃げるのはやめろ)
逃げてないよ、普通に考えて、有り得ないってだけの話じゃないか。
オレが佐助さんを好きになるなんて…普通じゃないよ。
「申し訳ありません。私などが詮索して良い事ではありませんでした」
「別に、才蔵さんが謝る必要は…」
「戻りましょう。桜様は部屋でお休みになられてください。食事を運ばせます」
「そう言えば、お腹減ったかもしれないです」
一日中ずっと動き回っていたから、食事をする暇も無かったんだよな。
正直なところ、あんまり食欲は無いんだけど、一応病み上がりなんだ。
何か口にしなくちゃ回復も遅れるし、才蔵さんにも余計な心配をかけてしまう。
(おい、話はまだ終わっていないぞ)
(桜はオレに何て言ってほしいんだよ。オレ、恋とかそういうの分からないんだよ。だって、佐助さんはオレの心の母親だぜ?)
(傍に居て、抱きしめられて安心する。お前が普段母親に抱く感情に似ているそれとは、全くの別物だ。佐助に髪を撫でられ心地よいと、このまま抱かれていたいと思うたことは一度たりともないのか?)
……だ、だからさ。
それは桜が感じていることを、オレも必然的に感情として受け取っているだけじゃないか。
桜は何がしたいの!
仮にオレが佐助さんのことを好きになったとしたら、困るのは桜だろ。
ライバルは少ない方が良いに決まってる。
佐助さんはカッコいい人なんだから。
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