恋をする人



「あー、あの、信玄様達とはいつ頃連絡が取れるでしょうか?あちらの状況は…」

「ご安心ください。武田軍が優勢と聞きました。ですが今は甲斐へ戻ることは出来ない、と」


誤魔化すつもりでとっさに思い付いたことを聞いてみたけど、テンションがガクッと下がってしまった。
そりゃ、そうなんだけどさ。
甲斐に起きた異変より、優先すべきは戦。
勝利を信じて命を懸けて戦う武人が、余計なことを考えていたらいけないんだよな。

…期待、していたんだ。
佐助さんだけは、桜を心配して、帰ってきてくれるんじゃないかって。
思い通りにならなくて悲しいとか、裏切られたとか、子供みたいな我が儘を口にしたりはしないけど。
こうも…泣きたくなってしまうなんて。


「そうですか…それなら、いいです」


優勢か…、喜ぶべきことだけど、当分の間は戻って来られないようだ。
不安でたまらないよ、皆が帰ってくるまで、毎日気を張っていなきゃならないの?

せめて犯人が捕まればいいんだけどな。
使用人に変装してこの屋敷の中に侵入しているとしても、オレには偽者かどうかも分からない。
いつ爆発が起きるかも予想がつかないから、安心して眠ることだって出来ないんだ。


(佐助さん…)


才蔵さんの後ろに見えた夕焼け空は、それこそ泣きたくなるぐらいに綺麗で、チャーリー君に光が反射して、いっそうキラキラ輝いた。


「こんなに…綺麗なのにな…」


沈んでいく太陽。
明るくて濃い、橙色をしている。
絵の具をパレットに出して、一滴も水を混ぜず筆につけて画用紙に描いたような色。
それは佐助さんを思い出させる、オレンジ色だ。


(オレ…会いたいんだ、佐助さんに…)


…帰ってきてよ。
顔を見せてくれるだけでもいいから。
オレはそれで、安心出来るから。
胸が押し潰されそうなほど締め付けられて、苦しい。
佐助さんに会えたなら、この心の痛みがすぐに無くなる気がするんだ。


「佐助さん…皆も、向こうで同じ夕焼け空を見ているかもしれませんね」

「ええ。長も桜様の事を想われているでしょう。貴女様がそれほど、恋い焦がれていらしたのですから…」

「はい?え、はぁ!?ななっ、何言っちゃってんですか!?」


才蔵さん、さらりと言ったけど、話の流れが不自然すぎないか!?
しかも真顔で言わないでくれ!
オレは一気に顔が熱くなってるってのに…これじゃ、肯定しているみたいだ。


 

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