重なり合う声



「みんなも、チャーリー君の音に合わせて唄ってみよう!間違えてもいいから、元気良く声を出してくれたら嬉しいな」


そんなこんなで、合唱練習が始まった。
爆音や悲鳴とは比べようのない、可愛らしい歌声を屋敷中に響かせる。

初めは恥ずかしそうに小さく口をパクパクしていた子供達だけど、徐々に慣れてきたのか笑顔が増えた。
音程は多少外れているけど、その方が子供らしくてオレは好きだ。

オレが最初に歌を教えた男の子が、今度は自分から進んで他の子達に歌詞を教えてあげている。
嬉しいなあ、音楽の先生ってこんな気持ちなのかな。
皆が音楽を楽しんで、夢中になって。
ひとつのものを完成させていくうちに、周りが知らない人ばっかりでも、仲良くなれるんだ。


「あっ!ぼく…桜姫様にお礼を言いたかったんです!」

「ぼくも…!」

「わたしも…」

「え、な、何のお礼!?」


オレに用があると会いに来た男の子を筆頭に、次々と連鎖するように頭を下げられ、困惑する。
そうだ、桜に話したいことがあるって言ってたんだっけ。


「かあさまと妹を助けてくださって、ありがとうございました」

「あ…、私は何もしてないよ?」

「姫様だけは、妹を最後まで助けるって…、だから、ぼく…嬉しかったんです」


男の子だけではなく、子供達は慣れない敬語を使い、思い思いの感情を桜にぶつける。
ひたすら純粋な気持ちで、感謝の言葉を述べるんだ。
姫様が民の救助に携わった、それだけなのに、子供達は感激して、お礼をしに来てくれた。
危機を防ぐことができなかった権力者を恨んでもおかしくないのに。
お礼を言いたいのはオレの方だ。

誰だって、子供の笑顔は嬉しいものだよ。
桜も、嬉しいだろ?
純粋な目を向けて、信じてくれて…。
みんなの笑顔を見れば分かる。
桜のことを好きになったんだ、って。


「姫様、また、歌を教えてください」

「うん、みんなで遊びにおいで?待ってるから!」


素直な心はそのままに。
大人になっても、人間を大切に出来る人間でいてね。


(…私も、また琴を…)

(マジで?そしたらオレにも聴かせてな!)

(…せっかちな奴だ…どうするかは言っていないだろう)


もし、ピアノがここにあったなら(あんまり弾けないんだけど)ちゃんとした伴奏を用意出来たんだけどな。
そもそもトランペットは伴奏向きじゃない。
でも、屋敷の外にまで響いた元気な歌声とチャーリー君の音色は、今日の忙しさをすっかり忘れさせてくれた。

どんな形でも、音楽はいいものだ。
明日は…、変わらない日常が戻ってきますように。



END

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