重なり合う声



ここ最近(と言うより眠っていた数日の間)練習をしていなかったから、感覚を取り戻すまで時間はかかるけど、
今求められているのは演奏技術じゃなくて、いかに人の心を動かすことが出来るか。


「歌は好き?」

「…好き…」

「じゃあ、桜お姉ちゃんのラッパに合わせて唄ってみよう!」


歌のお兄さんならぬ、トランペットのお姉さんだ。
男の子は桜姫の突然の発言に、目をまん丸にして驚いていたけど、気にしない。
一フレーズずつ、丁寧に歌詞を教え、何度もメロディを聴かせた。
ベルが前向きなチャーリー君の音は真っ直ぐだから、オレは男の子に直接音が当たらないよう、カッコ良さげなポーズを取ってみる。

楽しもうと思えば本当に楽しくなるんだよ、音楽って。
ずっと、笑顔を見せて、桜は恐れるべき人ではないんだと、安心していいんだよと伝えた。


(それも…お前の故郷の歌か?)

(そう。名曲だろ?)


オレはたくさん、素晴らしい曲を知っている。
前に佐助さんの前で唄った恋の歌とは、曲調も込められた意味もまるっきり違う、出会いの喜びを唄った歌。


「凄い凄い!もう全部覚えちゃったね。じゃあ次は、最初から唄ってみようか?」

「うんっ!」


子供は羨ましいぐらい記憶力が高いんだ。
すぐに歌詞と旋律を覚えてくれた。
良かった、元気が出たみたいだ。
あんなにメソメソしていた男の子が、もう笑っている。


(子供達が此方を見ているぞ。チャーリーの音に興味を示したのか…)

(あ、ほんとだ)


桜に教えられ視線を移せば、植え込みに隠れ様子をうかがっている子供を何人か見つけた。
怪我の治療を受けたんだ…、あちこちに白い包帯を巻いている。
軽傷で済んだから屋敷の中を動き回っていたんだろうけど…見つかったらつまみ出されちゃうぞ。


「こっちにおいでよ。みんなも一緒に唄わない?」


オレが声をかけた途端、気付かれていると思わなかったであろう子供達は目を丸くして驚き、ひっくり返る子までいた。
でも、怖がって逃げ出す子は一人も居なくて、緊張に顔を強ばらせながらも桜の側に寄ってくる。
姫の隣に笑顔の男の子がいたから、少しは安心できたんだろう。


「姫様、それ…、なんですか?」

「金で出来てるんですか!?」

「これはね、チャーリー君って言う楽器なんだよ。まあ一応、金…かな?」


メッキだけどな。
オレの説明を疑うこともせず真に受けた子供達は、一斉に目を輝かせる。
この量の金塊があったら(しかも素敵すぎる造形だ)強盗に狙われても不思議ではないかもしれない。


 

[ 153/198 ]

[] []
[]
[栞を挟む]



×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -