重なり合う声
すぐに次の国へと旅立つからという武蔵くんと別れ、屋敷に戻ったオレは、才蔵さんに指摘されるまで着物が水浸しだということをすっかり忘れていた。
結局、水を被ったのも無意味だったな。
せっかく治った風邪が再発してしまいそうだ。
(これは…まずいな)
(え、どうかした?)
部屋で新しい着物に着替えていたら、脳内で桜が重々しく語りかけてきた。
まずいって、何が?
連続爆破事件のことを言っているなら、城下の爆発からもう数時間過ぎたけど、今のところは落ち着いている。
でもいつ爆弾が投げ込まれるか分からないから、犯人が捕まるまでは気を抜けない。
見張りの人達は、怪しい奴は居なかったって言うし…
このまま犯人が見つからないで、また爆発が起きたら…次は怪我人だけじゃ済まないかもしれない。
(負傷者を屋敷へ運ぶ際、城門は長時間解放され、民も支援のため自由に屋敷を出入りしていた。隙だらけではあったのだが、私は…爆弾を仕掛けた当事者が屋敷から離れたとは思えぬのだ)
(どうして?逃げ出すにはもってこいだったんじゃないの?)
まだ、目的を果たしていないのか?
その爆弾魔が何を狙っていたかが問題だ。
さすがに、信玄様が甲斐を離れていることは知っているだろうけど、もし暗殺を目的としているなら、きっと夜に来るはずだ。
混乱に乗じて…何かを盗むつもり、とか。
小さな爆弾を用いたのは、屋敷の中に求めている何かがあったから。
壊れたら困るもの。
騒ぎを起こしてまで手に入れたいもの。
(お前は…絶対にチャーリーから手を放すな。良いな?)
(え、チャーリー君?もも、もしかしてチャーリー君が狙い!?)
(いや、それは無かろうが…、頼む。嫌な予感がするのだ。どうか…私の思い違いであってほしい…)
桜は、犯人に心当たりがあるのか?
確かにチャーリー君は貴重だけどっ!
ここまでの事態を引き起こしているんだ、しっかりリサーチはしているはずだろ。
オレは南蛮のラッパ、楽器だと公言しているし、珍しさだけで屋敷を襲撃するのか、と疑問が残る。
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