正義の味方



「才蔵さん…?」

「御身に傷が付こうとしていると言うのに…、止めずには、居られません」


つらそうな、今にも泣きそうな顔をして、才蔵さんは桜を見つめている。
なんで、そんな顔をするの…?

すぐそこで、男の子が泣いていた。
…赤ちゃんのお兄ちゃんだろうか?
きっと不安がいっぱいで…、苦しんでいるんだ。
大好きな妹が、死んでしまうかもしれないんだから。
どうすることも出来ない自分に腹が立って…、泣き叫んでも意味がないって分かっているのに、声をあげずにはいられない。
まるで、昔のオレを見ているようだ。


(才蔵さんも、本当は…悔しいんだ。赤ちゃんを助けられないことが)


オレだって…いやだよ。
だったら、どうしろって言うんだよ!
教えてよ…ねえ、
諦めるしか…ないのか?

幸村様…幸村様なら、このピンチを救えたかな。
熱い人だから、灼熱の炎も平然と受け止められる気がする。
赤ちゃんを見事に救出して、一躍ヒーローになって、女の子にも大人気だよ。
それで、佐助さんが火傷の手当てしてあげて、泣きやませるんだ。
皆のお母さんだからな、佐助さん。

…男の子の泣き声が響いて、胸が痛くなる。
何で、オレには力が無いんだ。
無力な自分が、一番許せない。


「おまえっ、ひめなのか?」

「え…?」

「金もちなんだろ?きっまりー!百倍がえしな!」


トーンの高い少年の声、だけを認識した。
声だけで姿が見えないと思ったら…嘘だろ、丸腰のまま炎に飛び込んでいったぞ!?
本当に、ヒーロー参上!?




…あれだけ燃え盛っていたにも関わらず、皆の協力のおかげで何とか鎮火させることが出来た。
赤ちゃんは、思わず目を覆いたくなるぐらいの火傷はしていたけど無事に助け出され、才蔵さんの応急処置を受けてから、屋敷へと運ばれた。
低い場所で寝ていたから、一酸化炭素をそれほど吸わないで済んだようだ。
暫く安静にすれば、火傷の痕は残るけど、日常生活を送るには支障がないって。

尊い命が助かって、良かった。
だけど、赤ちゃんは女の子だったんだ。
成長して年頃になったら、その傷のせいで、彼女は苦しむことになる。
お前が自責の念を抱く必要は無いって桜は言うけど、気にするなって言う方が無理だよ。


 

[ 147/198 ]

[] []
[]
[栞を挟む]



×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -